#39 切り絵家 松原 真紀(まつばら まき) - アクロス福岡
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#39 切り絵家 松原 真紀(まつばら まき)

切り絵家 松原 真紀(まつばら まき)

私が手掛けるのは、福岡県の伝統工芸品である八女手すき和紙だけを使った切り絵です。動物や昆虫、花や人物など命あるものをテーマに、すべて自分で下絵を描くところから行っています。
小さいころから夢は漫画家、というくらい絵を描くのは好きでした。よくいる“クラスで一番絵のうまい子”ですね。ただし美術系に進学することはなく、“普通の進路”を選びました。その後、子育て中は生活で手いっぱいだったのですが、少し子どもの手が離れたころに好きなことをしてみようかな、という余裕が生まれました。私が好きだったのは、古いもの。八女で生まれ育ったこともあり、町家と呼ばれる古民家や、昭和っぽい雑貨やインテリアなどが大好きなんです。子育てをしながら市役所で働いていた時、町家を再生して活用しようという取り組みが八女市で行われていることを知り、友人たちとともに町家を利用したカフェごっこのようなものを始めました。お菓子作りが得意な私は、お菓子と看板デザイン、メニューを担当。八女最大のお祭りの一つ、福島八幡宮の放生会に合わせて開催される「町家まつり」のときにも出店して、みんなで盛り上がったなぁ。しかし2年半くらい続けたころに、ちょうどメンバーの結婚や出産の時期が重なって、解散状態になってしまったんです。私自身はやりがいを感じていたので、何か一人でもお祭りへの出店を続けることはできないかと考えたときに思いついたのが、数年前にちょっとだけかじったことのあった「切り絵」でした。絵画はハードルが高すぎるし、陶芸なども無理。自分の得意なことでお客様に喜んでいただけるものは何だろう…と考えると、下絵が描けて工作も好きなので、あまりまだ人がやっていない切り絵がいいのでは!と思いついたんです。思いつくまま友人に話すと、「そんな急に、できるの?」とすごく反対されて、奮起しました(笑)。やってやろうじゃないかと。数年前に一度切り絵を学んだことがあったので、そこから独学で研究し、その年の祭りには、計17点の作品を出しました。今思うと無謀としか思えないんですけど、それでもお客さまから喜んでいただけたのが嬉しくて。その年の暮れにはなんとなく仕事にできるかも…なんて思い始め、その後切り絵作家一本で生きていこうと決意を固め、2010年に「くろくも舎」を設立しました。今、アトリエ兼ギャラリーにしているこの建物は自分で壁を塗り直し、トイレの床にタイルを敷いて…と一つずつ作り上げたんですよ。もともと古いものが好きで、町家に住むのが夢だったので、叶ったことは嬉しいです。引っ越してきたときに蜘蛛があまりにも多くて退治しようかと思って調べてみたら、実は益虫で蜘蛛がいる家はいいって書いてあって。見た目は怖いのに実はいい奴、って素敵だなと思い、ギャラリー名にしました。そして蜘蛛の巣って芸術的でしょう?あの技術を尊敬もしているんです(笑)。
夢は海外で個展を開くことと、切り絵の絵本を作ること。切り絵の世界をもっと広めていきたいです。

(文・上田瑞穂)

プロフィール 福岡県八女市福島地区生まれ。独学で切り絵を学び、2010年に八女市の白壁造りの城下町にある町家でアトリエ兼ギャラリー「くろくも舎」を設立。JR筑後船小屋駅舎待合室の装飾「ガラス戸装飾切り絵」など作品多数。著書に「自然の形が美しい 草花や動物モチーフの切り絵」「季節の草花と動物の切り絵」(どちらも文化出版局)など。