「ACROS」2016年4月号
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(文 上田瑞穂) 久留米で生まれ、香椎に育ち、九州芸術工科大学(編注:現在は九州大学に統合)に進んだので、福岡という場所が私という人間を構成する要素の一つであることは間違いありません。ただし、「福岡で育ったからこそこういう人間になった」とか「福岡が好きで好きでこの街から出られない」ということではないんです。よく、こういう答えを期待して「なぜ東京に拠点を置かないんですか?」と聞かれることがあるのですが、それはたまたまの巡り合わせとしか言いようがない。一度東京に行こうかと思ったこともあるんですけど、タイミングが合わなかったんです。それだけ。 私たちが作っている映像や文化といったものは、国境も人種も軽く飛び越えられるものです。「たくさんの人が面白がってくれるもの」を作ることが私たちの最大の喜びですが、その「たくさんの人」には地域も国も関係ない。だったら作る側だって、どこにいたっていいんじゃないの?という想いで、福岡で作り続けることにしました。実際に、最近では「面白い映像を作っている人がいるね」↓「福岡っていう街の集団みたいだよ」↓「福岡ってどこ?」というように認知されていることもあります。私たちは福岡から世界に向けて発信しているだけで、あえて福岡そのものにこだわってはいませんが、結果的に街の認知度があがり、「面白い街かも」と思ってもらえるきっかけになるなら、それはそれでいいかもしれませんね。 福岡にいながら作品を作っていたときふと、「この街が他の都市と違うのはどこだろう?」と考えたことがあります。その時思いついたのは、「国境が近い街」。それと時を同じくして作ることになったのが、「めんたいぴりり」というドラマでした。ご覧になった方はわかると思うのですが、このドラマの最初の舞台は釜山から始まります。釜山から福岡へ渡って明太子づくりに奮闘する家族の物語ですが、オンエアのころ、ちょうど領土問題がこじれて日韓関係が冷え込み始めていました。両国で放送されたので、何かそういった反応があるかな?と心配していたのですが、ふたを開けてみるとどちらの国でも高く評価していただき、皆さんからとても良い反響をいただきました。「面白いもの」はいろんな垣根を超えられると改めて実感しましたね。「福岡を盛り上げたい」なんて小さな目標を掲げる必要はない。だって、福岡の人も東京の人もニューヨークの人も、誰にとっても「面白い」ものは「面白い」でしょう?「世界中を面白がらせたい」、日々そう思いながら作品を作っています。16プロフィール福岡生まれ。九州芸術工科大学 画像設計学科卒業。'97年 KOO-KI 共同設立。CMや短編映画、ドラマなどエンターテインメント性の高い作品の演出を数多く手がける。'07~'09年カンヌ国際広告祭で三年連続受賞。'13年 東京五輪招致PR映像「Tomorrow begins」のクリエイティブ・ディレクションを務める。同年、ドラマ「めんたいぴりり」の監督を務め、日本民間放送連盟賞優秀賞、ATP賞ドラマ部門奨励賞、ギャラクシー賞奨励賞受賞。'09年 福岡市文化賞、'11年 福岡県文化賞受賞。2016.April今月号から、福岡ゆかりの方々に〝文化の魅力"を語っていただきます。#1
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