「ACROS」2016年5月号
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ふくあきらほうこうべい え へんさん分で想像して再生。だからより鮮明に覚えていますよ。今はCGで空想のものを簡単に作り出せるけれど、あの頃当然CGなんてまだない時代でしょう?日本の特撮映画が発展してきて、日本クラシック界も多くの作曲家が台頭し始めた、面白い時代。当時の「工夫」と「実験」を積み重ねた映像の中に、人間の持つ想像力を感じるでしょうね。 この公演は、福岡の他は東京、京都でしかやらないから(「ヴァイオリンと管弦楽のための協奏風狂詩曲」は福岡のみ)、貴重な演奏会になると思います。音楽と映像、クラシックと特撮、過去と未来…いろんなコラボレーションを体感しに、ぜひシンフォニーホールへ足を運んでください!福岡のお客さまたちにメッセージをお願いします。 今から62年前、日本のみならず、世界中に咆哮を轟かすゴジラがスクリーンに誕生した。映像はまだ白黒。音声も台詞・効果音そして音楽が1つのチャンネルしかなかったモノラルの時代だった。しかし、その圧倒的存在感と深層に響くストーリーは今なお私たちに大きな共感と憧れを持って存在している。 そのゴジラが、鮮やかにデジタルリマスターされた映像とともに、オーケストラとの共演という形でよみがえったのである! 老若男女誰しもが聴き覚えのあるあの音楽を作曲したのが、日本映画音楽界の巨星であり、現代日本作曲界の礎を築いた巨匠・伊福部昭。実は私の恩師でもあり、この企画誕生のキッカケが伊福部昭生誕百周年を記念した公演だった。 伊福部先生は、生涯に300本以上の映画音楽を担当し、他にも大魔神シリーズや座頭市シリーズ、日本誕生やビルマの竪琴など特撮から社会派まで幅広く作品を手掛けていた。第一作目のゴジラの時はちょうど40歳、脂が乗り切っていた時代であった。 ゴジラのステージ化において最も重要なことはスコア(楽譜)の制作であった。映画のためのオリジナルスコアは40人くらいの編成なのだが、コンサートホールでの編成は倍の80名程になる。また60年以上も経過しているためオリジナルスコアのいくつかは紛失していて、結果すべての楽曲のスコアを編纂作成することとなった。これは大変な作業であったが、1音1音伊福部音楽の偉大さを実感できる作業でもあり、弟子の一人として充実した時間でもあった。 実は今回の編纂で、映画ではカットされた曲や、音量を著しく下げて聴き取りにくい曲も全て復活再生した。映画は監督を中心にした総合芸術なので、音楽のカットや絞り込みも監督判断でありうることなのだが、ここでは伊福部先生の当初の音楽設計通りに再現した形となる。ラストのゴジラへのレクイエムは圧巻の音楽絵巻となっている。 スコア制作の次に大変なのが画合わせである。映像とオーケストラを指揮棒1本で合わせなくてはならない、まさに一発勝負である。私も映画の仕事をしていて画合わせをするのだが、スタジオ作業の場合はやり直しができる。合唱を含め、オーケストラと映像の生(なま)での緊迫感と臨場感は、映画にはないライヴならではの醍醐味となるであろう。 今回、日本を代表するヴァイオリニストであり、ゴジラファンでもある篠崎史紀氏と伊福部先生の「ヴァイオリンと管弦楽のための協奏風狂詩曲」を共演させていただくのも大いに楽しみなところ。この作品には、なんとあのゴジラのフレーズが登場するのである。作曲はこちらの方が6年前なので、その関係性も注目してもらいたい。文 和田薫(指揮・編纂編曲)SHINOZAKI Fuminori愛称 "まろ"。3歳より両親の手ほどきを受ける。15歳の時に毎日学生音楽コンクール全国第1位。北九州市民文化賞を史上最年少で受賞。群馬交響楽団、読売日本交響楽団のコンサートマスターを経て、1997年 NHK交響楽団のコンサートマスターに就任。以来、"N響の顔"、ソリスト、室内楽奏者、指導者として、国内外で活躍中。 2001年福岡県文化賞受賞、2014年第34回有馬賞受賞。北九州文化大使、桐朋学園非常勤講師、昭和音大客員教授。032016.May公演情報日 時:6月15日[水] 19:00開演会 場:福岡シンフォニーホール料 金:S席4,000円 A席3,000円   (学生各席1,500円引き)プログラム:■佐野史郎×篠崎史紀×和田薫によるトーク・ショー    ■ヴァイオリンと管弦楽のための協奏風狂詩曲     (ヴァイオリン・ソロ:篠崎史紀)    ■映画「ゴジラ」(1954)全曲     ※ライブ・シネマ形式篠崎史紀(NHK交響楽団 第1コンサートマスター)

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