「ACROS」2016年6月号
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(文 上田瑞穂) おかげ様でギンギラを私が主宰し始めて、今年で19年目になりました。今でこそ「地産地消の文化」なんて言われるようになりましたが、立ち上げた当時は「面白いものは東京や大阪にこそある」と信じられていた時代。「本物は東京にあるんだよ、やるなら東京でやるべきじゃないの?」と言われ、本当にそうなのか東京に取材に行ったんです。いくつもの劇団や舞台を訪ね歩き、徹底的に内外を見て感じたのは、「東京でも面白いものは面白い。面白くないものは面白くない」という至極当たり前のこと。土地はどこであれ、本物を作ればそれにお客さんが付いてきてくれるんだと確信して、私は生まれ育った福岡で勝負しようと思いました。 それでも10年間はもがき苦しみましたね。自分にしかできない表現は何だろう、福岡でしかできない表現は何だろう、と。ちょうど苦しんでいたころ、福岡の街は第二次流通戦争と呼ばれ、あちらこちらに新しい施設やビルが建ち、天神がものすごく活気に満ち溢れ始めていました。ふと、この元気で勢いがある町を擬人化してみたらどうか、そんなアイデアが沸いてきたんです。この町のエネルギーがあったからこそ、ギンギラの根幹となるスタイルが生まれたと言っても過言ではありません。あの時期の福岡以外では、生まれなかったでしょう。 地元に住んでいる人々に、身近な施設や企業などをもっと知り親近感を持ってもらったら、町はもっと楽しくなるなと思い、さまざまな企業を実名でキャラクター化しました。しかし実は19年間一度も、当該企業に許可をとったことがないのです。皆さんに驚かれるのですが、最初から全く無許可で「西鉄やくざバス軍団」とか「ソラリアデビル」なんてキャラクターを作り上げていました。始めて一年も経たない頃、西鉄本社から呼び出しを受けたんです。「あちゃー、もう見つかったか」と公演を辞めさせられるのかとドキドキしながら伺ったら、「あれは面白いね」と(笑)。ついでに、「今度西鉄ホールという施設ができるから、そこでやってくれないかな」と。怒るどころか応援してくれたんです。その後もソラリアさんや岩田屋さん、イムズさんなどキャラクターにしていた施設が続々とイベントを一緒にしようと声を掛けてくださり、福岡の街の懐の深さに驚かされました。東京や大阪ではこうはいかないよ、と言われたことも多数。福岡は一緒に面白がって支えてくれる気質があることを、全国を周るうちに気付かされましたね。 博多が芸どころなのは、表現者が多いというだけではなく、それを支える人たちが多いことに理由があるのでしょう。福岡の街に「やっていいよ」と認めてもらったからには、これからも語り部として、この町の魅力を伝えていく伝道者でありたいと思っています。2016.Juneプロフィール地元福岡を題材とし擬人化されたビルや乗り物が登場する「ギンギラ太陽ʼs」の作・演出・かぶりモノ造型・出演の全てを手がける。「地元にこだわった地産地消の物語」を、西鉄ホールや博多座、キャナルシティ劇場などで成功させている。第42回ギャラクシー賞ラジオ部門優秀賞、平成19年度福岡県文化賞、平成22年度福岡市民文化活動功労賞を受賞。12Muneto Otsukaギンギラ太陽ʼs主宰#3大塚 ムネト

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