「ACROS」2016年8月号
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(文 上田瑞穂) 小中高を北九州で過ごし、大学時代を福岡で送ったのちにアフリカに渡ったので、ほぼ人生の大半を福岡とアフリカで過ごしていることになりますね。NPO法人の事務局を北九州に置いたのは、やはり故郷が心の拠り所になるから。年に数回帰国して活動していますが、家族のように寄り添ってくれる「故郷」ならではの居心地の良さがありますね。 スーダンに初めて降り立ったのは、外務省の医務官として赴任したとき。目の前に困っている人々が大勢いたのに、医師である私は何をすることもできなかった。外務省の医務官は、外務省職員と在外日本人にしか医療を提供してはならないという規則があったからです。医師として、人として、これでいいのか。悩み抜き、自問自答を繰り返した結果出した結論は、外務省を辞職してNPO法人を設立することでした。きれいな飲み水を得る、病気の治療をする、正しい教育を受ける…生きていくうえで私たちが当たり前と思っている環境を、目の前にいるスーダンの人々にも届けたいと思ったんです。それから今日まで10年、無医村への巡回診療をし続け、井戸がなかった村には新たに設置し、教育を受けていなかった女子に学校を作り、ひたすらに私たちができることは何なのかを考えながら活動をしてきました。 スーダンでは当然、日本のようにインフラ設備が十分ではないので、あるものでいかに治療を行うか知恵を巡らせます。この草を煎じると腹痛が治る、なんて昔からの知恵が日本にもあるでしょう?そんな習慣や風習を学術的に検証して裏付けをとり、それを教えて予防医学につなげていく。いわば医療の「温故知新」です。最先端の技術は整っていなくても、古い知恵はたくさん眠っている。整った医療環境にたどり着けない人々に、その土地ならではの知恵を生かした治療を行うという、「新しい医療環境」を作っていきたい。日本の医療技術の押し付けではなく、スーダンらしい新しい「医」の形を切り拓きたいと思っています。 2年前、ロシナンテスと学術提携しているハルツーム大学の図書館内に、日本の文化、芸術を紹介し、交流の拠点となる文化センター「無東西」を作りました。内戦が絶えないスーダンで、優秀な若い力を戦争ではなく文化的活動に使ってもらいたい、「立ち位置が変われば東も西もない」という平和への想いを名にしました。スーダン政府は、大学には政治的に危険な思想を持った学生もいると警戒もしているのですが、この「無東西」はそんな思惑も及ばない異次元の空間です。今、この「和」の空間が学生たちの集いの場となっていることが、嬉しいですね。12プロフィール北九州市八幡東区生まれ。九州大学医学部卒。九州大学臨床大学院を修了し博士号を取得。外務省、在タンザニア日本大使館に医務官兼二等書記官として勤務の後、ロンドン大学にて熱帯医学を学び、在スーダン日本大使館に医務官兼一等書記官として勤務。平成17年辞職、同年よりスーダンで活動を開始。翌18年にスーダンにおいて医療を中心に支援活動を行うNPO法人「ロシナンテス」を設立。同年、国際NGO「ロシナンテス・スーダン」も設立した。平成25年福岡県文化賞受賞。Kawahara Naoyuki 2016.Augustよ認定NPO法人 ロシナンテス理事長#5川原 尚行

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