「ACROS」2017年10月号
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ノルウェーから初上陸 台頭めざましい未来派オーケストラ 一方、スウェーデン生まれのパーカッショニストとして頭角を表し、9歳でニューヨークのヴィレッジヴァンガードやジャズ・フェスティバルでバディ・リッチやサド・ジョーンズと共演。かのマイルス・デイビスが絶賛を惜しまなかったというエピソードも残っている。ピアニストとしても天才肌だが、生まれながらのリズム感とクラシックにとどまらないグルーヴのセンスが脚光を浴び、世界中のオーケストラからガーシュウィンのコンチェルトのオファーを受けている。そのカッコよさはYoutubeの映像でも証明済みだ。 面白いことに、二人とも「ピアノの貴公子」と呼ばれ、女性ファンからの支持が非常に高い。楽観的でワイルドなヤブロンスキーも、修道士のような聖なる雰囲気をもつブレハッチも、女心にぐっとくる「プリンスオーラ」を発しているのだろう。この機会にぜひ比べてみたい。ヤブロンスキーは、最初天才(文…小田島久恵)音楽ライター。クラシック、オペラを中心にバレエ、映画、演劇、ポップスについての評論、インタビューを執筆。著作に『オペラティック!女子的オペラ鑑賞のすすめ』(フィルムアート社)。 文:小田島久恵(おだじま ひさえ)リンドバーグクリスチャン・ペーター・ヤブロンスキー 2017年は北欧のオーケストラが熱い。独立100周年を迎えたフィンランドからは既にタンペレ・フィルハーモニー管弦楽団が来日し、北欧ならではの清澄でみずみずしいサウンドを聴かせていったが、隣国ノルウェーからも未知のオーケストラがやってくる。2009年に誕生したノルウェー・アークティック・フィルハーモニー管弦楽団が待望の初来日コンサートを実現するのだ。6億6千万円(2009年当時)の文化予算が投入されたこのオーケストラは、世界中から優れた演奏家たちを集め、たちまち国際的な評価を得て、ゲルギエフの招待で新マリインスキー劇場にも登場している。首席指揮者のクリスチャン・リンドバーグは日本でも人気の高いトロンボーン奏者であり、読売日本交響楽団との共演で世にも珍しい「トロンボーンの吹き振り」を実践してくれたのも記憶に新しい。ユーモラスで広い心を持ち、コンサートではつねにわくわくした瞬間を演出してくれる特別な指揮者だ。プログラムには、ノルウェーの作曲家オーレ・オルセン(1850ー1927)「アースガルズの騎行」、グリーグ「ピアノ協奏曲」、チャイコフスキー「交響曲第4番」といった名曲が並ぶ。オーレ・オルセンは知る人ぞ知るマニアックな作曲家だが、リンドバーグはオルセン作品のレコーディングも積極的に行っており、「アースガルズ…」では、ワーグナーの『ワルキューレの騎行』にも似た勇壮でワイルドなオーケストラが堪能できる。グリーグの『ピアノ協奏曲』では、スウェーデン出身の天才肌の異端児ピアニスト、ペーター・ヤブロンスキーが登場。グリーグゆかりのオーケストラといえば古株ベルゲン・フィルハーモニー管弦楽団を思い出すが、新世代の音楽集団であるアークティック・フィルの「お国もの」も聞き逃せない。鉄壁のメカニックをもつヤブロンスキーのパフォーマンスにも注目だ。チャイコフスキーの「交響曲第4番」は、創立からリーダーシップを務めるリンドバーグとこのオーケストラの実力の見せ所で、既にチャイコフスキーの『交響曲第5番』を新マリインスキー劇場で大成功させているだけに、ハイレベルの演奏が期待できそうだ。 世界的な躍進を続けているアークティック・フィルの背後には、ノルウェーという国の文化水準の高さや、世界で最も男女平等が浸透している先進性がある。一人当たりのG の DPや平均寿命が高く、就学率・成人識字率もトップクラスで、2006年には人間開発指数(HDI)で世界一位を記録。恵まれた文化的環境の中で、人間性の高いリーダーとともに発展を続けているスーパー・オーケストラが、聴衆に与えるものは計り知れないはずだ。2017.October05ご覧ください。福岡・音楽の秋フェスティバル2017 19:00開演※入場料ほかはP2を10月16日(月)ノルウェー・アークティック・フィルハーモニー管弦楽団
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