「ACROS」2017年10月号
7/20

音楽評論家、古楽器奏者。クラシカル・プレイヤーズ東京トロンボーン奏者。「音楽の友」で連載執筆中。「レコード芸術」月評担当。著書多数。元東京藝術大学非常勤講師。最新刊は「名曲の真相」(アカデミア・ミュージック)。佐伯プロフィール 茂樹(さえきしげき)Sigiswald Kuiken 10月20日〜22日の3日間、恒例の新・福岡古楽音楽祭が開催されます。今年の目玉は、ベルギーの古楽団体「ラ・プティット・バンド」が、21日のコンサートで上演するハイドンの歌劇「ラ・カンテリーナ(歌姫)」。  ハイドンのオペラは、ヨーロッパでも滅多に演奏される機会がなく、上演されること自体貴重なのですが、それを、ハイドン時代のオーケストラの響きを再現したラ・プティット・バンドと歌手たちの演奏で聴くことができるというのだから、これは聴き逃すわけにはいきません。   演奏時間が約50分と手頃な長さで日本語字幕が付くので、初めてオペラを聴くという方も心配することはありません。ラ・プティット・バンドがステージの上に乗って、歌手たちがその前で演技をする形なので、古楽器の演奏シーンを見ながらオペラを観るというぜいたくな楽しみ方も可能になります。  しかも、この日のコンサートでは、「ラ・カンテリーナ」だけでなく、モーツァルトの交響曲第27番とディヴェルティメント第7番も演奏されるとのこと。一晩で、世界最高の古楽オーケストラによるオペラと管弦楽曲を聴くことができるとは、なんとぜいたくなプログラムなのでしょう。   ほかに、20日には、ラ・プティット・バンドのメンバーによるモーツァルトとハイドンの弦楽四重奏曲のコンサートも開かれるので、こちらも必聴です。ハイドンのオペラもそうですが、古典派時代の作品をピリオド楽器で演奏するときは、バロック時代の曲を演奏するときとはピッチやフレーズのとり方が違うので、その点に注目して鑑賞してみてください。18日のプレコンサートでは、ラ・プティット・バンドのリーダーであるクイケンがバロック・ヴァイオリンを演奏しますから、古典派の弾き方と比べてみるといいでしょう。   音楽祭では、ラ・プティット・バンド以外にも、ソプラノの野々下由香里とチェンバロの大塚直哉のコンサートのほか、リコーダーの太田光子、フラウト・トラヴェルソの前田りり子やコンサートの出演者によるマスタークラス、古楽アンサンブルと合唱の古楽セミナー、リコーダーワークショップが開催されるので、古楽の第一線で活躍するアーティストのレッスンを通して、彼らの音楽の作り方に触れることもできます。例年どおり、愛好家たちによる古楽コンサート、古楽器やCDの展示・販売もあるので、お祭り気分で気軽に足を運んでみてはいかがでしょう? きっと古楽の幅広い魅力を感じることができると思いますよ。 今年の目玉はハイドンの「ラ・カンテリーナ」!        当時の優雅で楽しいステージを再現する2017.October0710.21La Petite BandeLa Canterina バロック音楽に欠かすことのできないチェンバロ。きらめくような華麗な音色が魅力の楽器です。チェンバロは、鍵盤を押すと爪が上がって弦を弾く構造ですが、同じように弦を弾(はじ)くギターやハープよりも音色が金属質で華やかです。その理由としては、チェンバロの弦の材質が、ガット弦のような柔らかいものではなく、真鍮などの金属でできていることが挙げられます。真鍮は、トランペットと同じ材質。発音原理は違いますが、輝かしい音という点ではどこか共通点があるのかもしれません。実は、バロック時代は真鍮は貴重な金属でした。王侯貴族の楽器だからこそ、そうした材質をふんだんに使用することができたのでしょうね。10.18しんちゅうはじ©Higashi AkitoshiFukuoka Early Music Festival 2017チェンバロこばなし

元のページ  ../index.html#7

このブックを見る