#2 染織家 釜我 敏子 (かまが としこ) - アクロス福岡
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伝えたい文化の魅力

#2 染織家 釜我 敏子 (かまが としこ)

染織家 釜我 敏子

学生時代から絵が得意だったとか、芸術に造詣が深かったなんてことはなく、まさか自分が型絵染作家になろうとは思ってもいませんでした。若いころにお稽古事のひとつとして、洋裁やフランス刺繍などと一緒に、ろうけつ染めも習っていたんです。少し染めの知識を持っているなかで、ある時佐賀でたまたま鈴田照次先生(編注:人間国宝である鈴田滋人氏の父)の型絵染の作品に出会い、衝撃を受けました。こんな染めをしている人が九州にもいるんだ、と。当時、やはり染めの世界の中心となっていたのは東京や京都、金沢といった伝統的な産地で、ろうけつ染めをする人はいても着物の型絵染をする人は地方にはほとんどいませんでした。だからこそ鈴田先生の作品の世界観の大きさと佐賀で作家活動をされているというギャップに驚いたのかもしれません。その後、すっかり魅了された私は我流で型絵染の世界にのめり込んでいきましたが、数年で独学の限界を迎えました。デザインやアイデアは沸き続けるのですが、それを表現する技術力に欠けていたのです。

いつも出逢う人の縁に恵まれているなと感じるのですが、この時もたまたまある会合で隣り合わせたのが、人間国宝であったお父さまから長板中型の技術を受け継いだ松原与七氏。糊置きを教えてくださいと頼み込み、数か月後には上京し東京に2週間滞在して朝から晩まで徹底的に教わりました。そしてその後数年間にわたり何度も上京して学び続けました。この技術を習得したことで道が開き、デザインから型彫り、染めに至るまで全て一人で完結するようになったのです。もし東京に住んでいたら、レベルの高い彫師の方なども多いので、もしかしたら手軽に分業を選んでいたかもしれません。福岡にいたからこそ、全てを自分の手でする覚悟が生まれたようにも思います。

福岡で活動していてよかったなと思うのはもう一つ、デザインのアイデアが枯渇しないこと。私は草花をモチーフにすることが多いのですが、切花からはイメージが膨らみません。根っこから生えているものからインスピレーションが沸くので、そういった意味で少し歩くとすぐに自然の野山に出逢えるこの環境は最適なのです。

地方都市であるからこそのデメリットのおかげで一貫して作品を作り上げるという私なりのスタイルができあがり、またメリットのおかげで大都市では生まれにくい自然と一体化したデザインが生まれました。ある程度の不便さは、人と文化を成長させてくれますね。
(文・上田瑞穂)

プロフィール 四季の草花をモチーフに、極めて精巧かつ優美な作品を紡ぎだす型染染織家。
昭和54年に日本工芸会正会員に認定され、平成6年には東京国立近代美術館「現代の型染展」で日本を代表する25人に選出。平成19年日本工芸会奨励賞、平成24年朝日新聞社賞、平成26年福岡県文化賞受賞。