#10 ピアニスト 占部 由美子 (Urabe Yumiko) - アクロス福岡
Language 検索
  • Facebook
  • Instagram
  • YouTube
  • Twitter

伝えたい文化の魅力

#10 ピアニスト 占部 由美子 (Urabe Yumiko)

ピアニスト 占部 由美子

直方で生まれた私が、東京を経てミュンヘンに住み始めて、もう32年。ドイツでの暮らしが長くなった今でも、福岡空港に降りると「帰って来た」と思い、遠賀川や福智山の景色を見ると心からリラックスします。故郷はやはり特別な場所です。

ドイツは中央集権ではなく一つ一つの街に個性があります。ミュンヘンは人口150万人弱でほぼ福岡市と同じですが、「大きな村」と呼ばれているくらい、自然豊かで文化や風習が色濃く残る地域です。その点では福岡と似ているかもしれません。ここも山笠をはじめとする祭りや博多織などの伝統工芸が数百年続いており、明るくて開放的な雰囲気も共通しています。福岡を訪れたことのあるドイツの友人たちは口々に、食べ物はおいしいし、人々も街も明るいと目を輝かせます。故郷を褒められると、自分の事のように嬉しいですね(笑)。

日本にもドイツにもそれぞれの良さがあると思いますが、ドイツ人の気質で特徴的なのは「自分の意見を主張する事が相手を否定する事につながらない」考え方。 芸術、文化においても誰かの評価ではなく、まず自分の想いを大事にします。そしてそれを主張する。時に頑固でへきえきしますが(笑)。かと言って、違う意見を持つ人を否定するわけではないんです。主張と尊重。周りを気遣い、角を立てない日本の美徳はとても大切ですが、もし「それのみ」を優先すると「耳障りが良く、当たり障りの無い」意見や作品しか生まれない恐れもあります。

世界は情報であふれ、何でも指一本で検索できます。音楽においても瞬時にして貴重な歴史的録音や動画に接する素晴らしさもあり、一方では、さして必要の無い情報の収集に時間を失う事もしばしばです。自分がまず楽譜と向き合う以前に既に無意識に植え付けられた他人の持つ印象や周囲の意見、それと自ら本当に考え感じた上で求めるものとの境が曖昧になりがちですので、演奏者は時折静かな環境に身を置いて「自分の声」に耳を澄まさなくてはならないと感じます。

もう何年来も私の夏は霧島音楽祭に始まり、〝熱さ〟も頂点に達した頃に福岡でアクロスの弦楽合奏団の仲間と過ごしています。また、数年前より静岡県袋井市「月見の里」で行っているのは長年日本で実現させたかった本来の私の仕事「コレペティトール」。これはステージに上がる前の「下稽古の現場に携わるピアニスト」のこと。譜読みはもちろん、音楽への理解を深めるなど、「伴」に「奏」でるパートナーとして音楽創りに欠かせない存在です。縁の下の力持ち、ピアニストのこのように創造的で魅力ある役割をもっと日本でもお伝えできればと思いますね。
(文・上田瑞穂)

プロフィール福岡県直方市出身。4歳よりピアノを始め中学卒業後、東京藝術大学音楽学部附属音楽高校へ進学。同大学を経て同大学院修了の後ミュンヘン音楽大学留学。同音大講師を務め2006年より教授。クローンベルクアカデミーの公式ピアニスト。2013年福岡県文化賞受賞。現在アクロス弦楽合奏団メンバー。