#13 写真家 百瀬 俊哉 (Momose Toshiya) - アクロス福岡
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伝えたい文化の魅力

#13 写真家 百瀬 俊哉 (Momose Toshiya)

写真家 百瀬 俊哉

東京出身ですが、もう福岡のほうが長くなりましたね。若いころ、東京以外のどこか遠いところに住んでみたいと漠然と思っていたんです。海外よりは行きやすい北海道や九州を考えていたときに、福岡に写真を教えている面白い大学があると知り、進路を決めました。当時は軽い気持ちだったのですが、結果的にこの選択は大正解でしたね。それから今日まで、私の人生の大半を過ごす街になりました。

撮影のために海外によく行くのですが、福岡はとにかく便利がいい。空港が近く、またアジアのハブ空港である仁川国際空港もすぐ隣。それに加えて、非常に制作に適した街なんです。都会と田舎が共存しているので、撮りたいと思う環境を苦労なく見つけることができます。例えば東京だと、街がぎっちりと詰まっているので、「このアングルで撮りたいけどビルがあって難しい」なんていう状況が非常に多いんですよ。構図に空白も生み出しにくい。その点、福岡は被写体とポジションの選択にかなり自由が利く、写真家冥利に尽きる街だと思います。

また、福岡はさまざまな人を受け入れる気質を持つ稀有な街ですよね。田舎から来た人も、都会から来た人も、外国人もみんな受け入れる度量がある。街中のサインを多言語化したのも、福岡が一番先だったのではないでしょうか?外から来た人への自然な「おもてなし」の精神の現れだと思います。そういった人々の気質と、先ほど述べた制作環境の充実という両方の理由から、多くのクリエーターがこの街に集まってきているのではないでしょうか。

よく学生たちに伝えているのは、「一歩余計に踏み出そう」ということ。どんな仕事でもそうですが、満足する結果が出た時に、そこで終わるのではなく、さらにもう一歩だけプラスアルファの経験を積んでいくと、その積み重ねが人生の財産になると思うのです。「今日はこれで撮影終了」と思ったら、あとワンブロックだけ先まで歩いてほしい。もしかしたら、そこに素晴らしい風景が待っているかもしれない。「これでいいな」と思う半歩でも先を目指すことが、こだわりのある仕事に繋がると思うんです。福岡という街にはそのこだわりをかなえる余裕があります。自分の時間にも心にも常に余白を持つようにし、プラスアルファの経験を積み重ねることが、あとから自分の人生にご褒美として戻ってくると伝えたいですね。
(文・上田瑞穂)

プロフィール東京都出身。九州産業大学大学院芸術研究科修了。2000年日本写真協会新人賞、2002年写真集「東京=上海」で第21回土門拳賞受賞。2009年福岡県文化賞受賞。「インド照覧」(窓社)、「EAST=WEST」(西日本新聞社)など、著書多数。現在、九州産業大学芸術学部の教授を務める。