#21 美術家 江上 計太 (Egami Keita) - アクロス福岡
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伝えたい文化の魅力

#21 美術家 江上 計太 (Egami Keita)

美術家 江上 計太

東京藝大在学中は、芸術を研究するような学問をしていたのですが、研究者ではなく自分が作り手になりたいという気持ちは強かったですね。とはいえ、漠然と芸術家になりたいと思っていただけで、当時は具体的には何をすればいいのかもわかりませんでした。

活動を始めたのは大学を出たあと、福岡に戻ってきてから。志を同じくする仲間たちと出会い、77年か78年くらいから現代美術とは何だろうと探り始めました。そう模索していたころ、80年代前半くらいだったでしょうか。日本の現代美術の先駆者ともいえる川俣正氏の展覧会が福岡で行われました。美術館のみならず、アパートの一室も会場となり空間を作り上げていたのですが、そのアパートの作品を見たときに「これがインスタレーションか」と一気に理解できました。市井の空間に生き生きと展開されていたその作品を目のあたりにして、ある種の憧れというか、自分もやってみたいと強く感じたのです。

当時の福岡はまだ「インスタレーション」という言葉も一部の人しか知らないくらいの街。前衛芸術は大都市で評価されることが多く、地方にいたら難しいでしょうと言われることも多いのですが、意外にそうでもないことに徐々に気付いていきました。例えば欧州で花開いた芸術は、大都市・パリでは印象派が主流でした。しかしそれが伝わっていく過程で、遅れて伝播していく地域ではよりラジカルになり、ロシアやアメリカではより一層前衛的なものが発生していきましたよね。それと同じで、最初に新しいものが生まれた大都市はそれをじっくりと育てる中である種保守的になるのですが、時差的に遅れてやってきた土地では先人たちが10年も20年もかけて築いたものを圧縮して受け取ることができるんです。いい意味で野蛮な、ラジカルな作品が生まれるのはむしろ外円に近いほうではないかと思っています。福岡にはその土壌があったので、その後現代美術はさまざまな広がりを見せましたね。最近は少し大人しくなりつつある気もしますが。この街は居心地が良すぎて、ハングリー精神に欠けるのかもしれません。アートは特別な才能を持つ人たちのものではなく、誰もが身近な材料を使って表現できるもの。もっと敷居を下げて、誰もがアートに触れられる街にしていけたらな、と思います。

そして今感じるのは、「文化」という言葉さえ用いれば、誰もが何でも認めなくてはいけないような風潮になっていること。「文化的」であれば当たり前のように崇拝し、すぐに社会に認知されます。そんな安易な文化を享受していたらアートは自滅します。経済成長に伴って、お金でアートを判断するようになりましたが、資本主義にアートが依存するなんていう状況は私には全く理解できません。アートは誰もが平等に楽しめる表現方法であり、またアートそのものが自立していられるものでありたいと思いますね。誰かに教えられたり、与えられる価値を喜ぶのではなく、気軽に芸術や文化に触れられる環境がこの街にもっと増えることを願っています。
(文・上田瑞穂)

プロフィール福岡県大牟田市生まれ。東京藝術大学美術学部芸術学科を卒業ののち、帰福し美術家として活動を始める。福岡や東京、フランスなどで個展を開催するなど国内外で活躍。「第5回バングラデシュ・アジア美術ビエンナーレ1991」最高賞受賞。博多リバレインや渋谷マーク・シティなど各地のパブリックアートを多数手がける。平成11年福岡県文化賞受賞。