#2 博多人形師 田中 勇気 (たなか ゆうき) - アクロス福岡
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伝えたい文化の魅力 NEO

#2 博多人形師 田中 勇気 (たなか ゆうき)

博多人形師 田中 勇気

小さい頃から絵を描くのが好きだったり、美術の成績が良かったなんていうことはないんです。手先は器用なほうで、「木を切って組み立てる」といったような図工的作業は好きだったんですけど、芸術の素養が自分にあるとは全く思っていませんでした。
漠然とした「職人の世界」への憧れがあり、高校卒業時にさまざまな進路を考え、悩みました。そうして迷っているときに、のちの師匠となる梶原正二師が作った博多人形を目にする機会があったんです。出合った瞬間に、心を打たれました。武者物と呼ばれる武士の姿は雄々しく、時に荒々しさも有しており、一方で美人物と呼ばれる女性の人形からは肌の細やかさ、着物の軽さまで伝わってくる。一人の人間が生み出したとは思えないほどの表現の豊かさと美しさに魅了され、弟子にしてくださいとその場で頼み込んでいました。それから10年、住み込みで修業をしました。
職人に憧れて入ったものの、博多人形師は私が想像する「職人」ではありませんでした。職人ではなく、むしろ芸術家に近い。伝統工芸というのは美術的要素を有するものの、基本的には日用品であることが多いでしょう?器であっても竹細工であっても、使いやすさも求められるんです。ただ、博多人形は圧倒的に「美術品」として扱われる工芸品。「実用性」を求められないので、造形物であれば何を作ってもいいという作り手としての自由さは、この世界に入って初めて気づいた魅力です。それと同時に、美術が得意ではなくても職人として生きられると思っていたのに、芸術的素質が必要とされることに不安もありましたね(笑)。周りには美大出身者も多く、私が通用するのかと。いくつか賞をいただいた今でも、自分に美術の素養があるのかは未だに疑問です。ただ、師匠のもとで10年間、教えてもらえるものは全て吸収したと言えるくらい学んだ自負はあります。
今、若い世代には博多人形が「よくわからないけど高いもの」というだけの認識をされているのは残念ですよね。手間と時間、技術を要するので当然価格は高くなるのですが、その「高い」理由を知ってほしい。そして買わなくてもいいから、この町に博多人形という工芸品があることを誇ってほしいと思っています。博多人形は400余年の歴史を持ち、1900年のパリ万博にも出品された歴史を持っています。こういった歴史を含めて、「うちの町にはすげーもんがあるぜ」と若い世代が誇れる工芸品になると嬉しいですね。
2年前に独立させてもらい、冷泉公園前に工房を開きました。自分自身でお客様に直接売れるチャンスが欲しいと思い、また絵付け教室などを通してもっと身近な存在に思ってもらえればという願いを込めて。丁寧に作ると当然価格は下げられないのですが、そういった意味ではなく博多人形がもっと皆さんにとって「カジュアル」な存在になればと思っているんです。特別なものではなく、身近なものに。今はまだこの工房を軌道に乗せることで精一杯ですが、いずれ福岡だけではなく全国でも気軽に博多人形を手に取れるようなショップ展開ができれば嬉しいですね。目下の夢です。

(文・上田瑞穂)

プロフィール 佐賀県佐賀市生まれ。高校を卒業後、博多人形師・梶原正二氏の弟子として修業を始める。2010年「博多人形与一展」理事長賞を皮切りに2012年、2013年と連続で与一賞を受賞。2016年に独立し、博多区上川端町に「田中勇気博多人形工房」を開設。制作や販売のみならず、人形作り教室や絵付け体験なども行っている。
博多にわかUSBポート
同じ冷泉荘に事務所を持つ電気メーカーとコラボして制作した「博多にわかUSBポート」(3,200円・税別)。電子と伝統のコラボが斬新で面白い。
相撲人形
「小さい頃からお相撲が好きだったんです」と話す田中さんが作る相撲人形は、どれも愛嬌と力強さがたっぷりで、愛情が伝わってくる。