#3 水引デザイナー 長浦 ちえ (ながうら ちえ) - アクロス福岡
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#3 水引デザイナー 長浦 ちえ (ながうら ちえ)

水引デザイナー 長浦 ちえ

よく聞かれるのは、「なぜ水引を選んだんですか?」という質問。実家の家業だったわけでも、産地で育ったわけでもない私が、なぜ水引デザイナーになったのかというと、偶然といえば偶然です。しかし水引デザイナーとしてお仕事を重ねるにつれて、運命であれば必然であったのかなと、正直不思議な感覚です。
美大を卒業した時点では、どうしたら美術を生かした仕事に就けるかもわからず、新卒でメーカーの商品企画室に就職しました。企画室デザイナーとして雑貨などさまざまな商品のデザインに携わるなかでたたき込まれたのは、「作品ではなく、商品を作れ」という精神。大学では独自性のある「アート作品」を求め続けていたのに、会社では万人が心地よく感じる「商品」を求められることに戸惑いました。きわめて当然のことなのですが、誰しもがわかるとは限らない「アート」と、わかりやすくあるべきだという「デザイン」の違いに改めて気づかされたのです。このときの経験が、「ニーズに応える作品が何より大事だ」という私の価値観の素地を築いてくれました。会社員時代に、「今の時期には何が売れるか」「この層が求めるものはどういうものか」というマーケティング感覚を養ったと思います。「長浦さんの作品は斬新だ」とか「見たことがない」と言われることが多いのですが、私自身は決して水引の基本から外れたことはありません。昔から伝統的に受け継がれている型を守りながら、時代に合わせたニーズを読み取り作品に加えることで、結果的に「全く新しい」と思われる作品を作ることができているのかもしれません。
また、私がアイデンティティーを意識したのは、パリに住んでいたときのことです。小さいころから「どうしてたくさんの人がいる中で、出逢う人って決まっているんだろう」なんて考えるような子どもだったのですが、この疑問は「ご縁」という言葉に集約されていますよね。「ご縁」という単語を聞いて、「袖振り合うも多生の縁」のような何気ない日常の中の出会いを想像できるのは日本人ならではの感覚。もう一つ、これも幼少の頃から私はモノを異常に大事にする子で、モノには命が宿っているという感覚を持っていたのですが、これは「八百万の神」につながります。知らず知らずのうちに、日本人特有の感性を大事にしていたことに気付き、日本人の自分が水引をする意味を考えるようになりました。さまざまな商品のデザインに携わっていたのですが、そのなかでも水引は特に日本人ならではの心を表せる工芸品であると感じ、感謝や人とのつながりといった見えないものを形にする水引を仕事にしたいと思ったのです。
水引を添えるときには、必ず贈る目的があります。例えば結婚のように一度きりのお祝いなのか、何度あってもいいお祝いなのかによって結ぶ形は変わります。そういった基本的な要素は守りつつ、多くの人の目を引き、選んでもらえるようなデザインを作り続けたいですね。「型があるから型破り。型が無ければ、それは形無し。」という故・中村勘三郎さん(18代)の言葉が、大好きなんです。

(文・上田瑞穂)

プロフィール 1979年福岡県生まれ。2003年 武蔵野美術大学油絵学科卒業後、水引デザイナーとして商品開発に携わる。2004年渡仏。2008年より拠点を福岡に移し、2013年に自身のブランド「TIER(タイヤー)」を立ち上げる。プロダクトデザインの他、企業広告、雑誌・ポスター・CDジャケットのアートワークなど多様なジャンルで活躍中。
水引
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