#10 株式会社ヤマップ代表取締役 春山 慶彦 (はるやま よしひこ)
登山者用アプリを開発したこともあり、よく小さいころから山に登っていたんでしょう?と聞かれるのですが、全くそういうことはないんです。むしろ福岡を出る18歳までは、スポーツなど身体を動かすことは好きだったものの、自然に触れることはほとんどありませんでした。両親も含め、周りに自然好きな大人もいなかったんですよね。
大学生になってから自転車で九州一周をしたり、関西を巡る経験をしたときに、こんな身近に自然という素晴らしい世界があったことに初めて気づいて、ショックを受けました。何にショックを受けたのかと言うと、それまでの自分の周りにもこの環境はあったはずなのに、それらに全く気付いていなかった自分の視野の狭さにです。そしてこの素晴らしい世界を誰も教えてくれなかったことに。その時、これから大人になるからには、自分自身できちんと世界を見ようと決意しました。それまでの自分の価値観や情報は、与えられたものだったことに気付いたのです。うわさではなく、自分の目と耳で確かめる。前例や誰かが言っていた言葉をうのみにせず、自分の頭で考えることをモットーとすることを決めました。それから時は経ちましたが、さらにこの思いは強くなっていますね。情報化社会になればなるほど、情報は雪崩のように押し寄せてくる。それらを自分のフィルターを通して取捨選択していかないと、考える力はどんどんと衰えていくと思うのです。茨木のり子さんの詩の中で「自分の感受性くらい自分で守れ」と謳ったものがあるのですが、非常に共感します。
私が究極的に実現したいと目指しているのは「誰もが自然を身近に感じる社会にすること」です。写真家を目指しながらも気づいたら会社を起業していましたが、もともと経営者になりたいという願望はありませんでした。ただし、起業家であれ芸術家であれ、目指す山自体は同じだと考えています。登り方が違うだけ。そういった意味で、目指す山の頂上ははっきりと決まっているのです。なぜ誰もに自然経験を得てほしいと思うのか。それは自然経験がある人とない人では時間軸が全く違うから。人間が作ったものだけに囲まれて生きていると、人間の時間軸になります。1分先、1時間先、今日…という単位で時間を捉える。しかし自然の時間軸に当てはめると、あと自分の人生で何回桜が見られるだろうとか、農業をしている人なら何回収穫を迎えられるだろう…と長いスパンで物事を考えられるようになる。それはすなわち、自分の命の短さを知り、自然や自分の命に対して謙虚な気持ちを持つことに繋がります。そしてこの世界には人間ではとてもあらがえない自然の脅威があることも知る。自然と共存するということは、われわれの生き方を変える大きなきっかけになるのです。
最近、海洋環境の悪化が世界的に社会問題化していますが、これから地球の環境問題はさらに激化するでしょう。そんなときに、水俣をはじめとするさまざまな公害を経験したにもかかわらず、まだ国土の7割もの森林を守っている日本こそが、これら環境問題のイニシアチブをとるようになるはずです。日本にはもともと里山文化があり、人の手が適度に加わることで生態系がより豊かになるという経験をしてきました。誰もが自然と触れ合う社会を作ることで、この国が本来持つ力をさらに伸ばすことができると信じています。
大学生になってから自転車で九州一周をしたり、関西を巡る経験をしたときに、こんな身近に自然という素晴らしい世界があったことに初めて気づいて、ショックを受けました。何にショックを受けたのかと言うと、それまでの自分の周りにもこの環境はあったはずなのに、それらに全く気付いていなかった自分の視野の狭さにです。そしてこの素晴らしい世界を誰も教えてくれなかったことに。その時、これから大人になるからには、自分自身できちんと世界を見ようと決意しました。それまでの自分の価値観や情報は、与えられたものだったことに気付いたのです。うわさではなく、自分の目と耳で確かめる。前例や誰かが言っていた言葉をうのみにせず、自分の頭で考えることをモットーとすることを決めました。それから時は経ちましたが、さらにこの思いは強くなっていますね。情報化社会になればなるほど、情報は雪崩のように押し寄せてくる。それらを自分のフィルターを通して取捨選択していかないと、考える力はどんどんと衰えていくと思うのです。茨木のり子さんの詩の中で「自分の感受性くらい自分で守れ」と謳ったものがあるのですが、非常に共感します。
私が究極的に実現したいと目指しているのは「誰もが自然を身近に感じる社会にすること」です。写真家を目指しながらも気づいたら会社を起業していましたが、もともと経営者になりたいという願望はありませんでした。ただし、起業家であれ芸術家であれ、目指す山自体は同じだと考えています。登り方が違うだけ。そういった意味で、目指す山の頂上ははっきりと決まっているのです。なぜ誰もに自然経験を得てほしいと思うのか。それは自然経験がある人とない人では時間軸が全く違うから。人間が作ったものだけに囲まれて生きていると、人間の時間軸になります。1分先、1時間先、今日…という単位で時間を捉える。しかし自然の時間軸に当てはめると、あと自分の人生で何回桜が見られるだろうとか、農業をしている人なら何回収穫を迎えられるだろう…と長いスパンで物事を考えられるようになる。それはすなわち、自分の命の短さを知り、自然や自分の命に対して謙虚な気持ちを持つことに繋がります。そしてこの世界には人間ではとてもあらがえない自然の脅威があることも知る。自然と共存するということは、われわれの生き方を変える大きなきっかけになるのです。
最近、海洋環境の悪化が世界的に社会問題化していますが、これから地球の環境問題はさらに激化するでしょう。そんなときに、水俣をはじめとするさまざまな公害を経験したにもかかわらず、まだ国土の7割もの森林を守っている日本こそが、これら環境問題のイニシアチブをとるようになるはずです。日本にはもともと里山文化があり、人の手が適度に加わることで生態系がより豊かになるという経験をしてきました。誰もが自然と触れ合う社会を作ることで、この国が本来持つ力をさらに伸ばすことができると信じています。
(文・上田瑞穂)
プロフィール
1980年、福岡県春日市出身。同志社大学を卒業後、写真家を目指しアラスカ大学フェアバンクス校へ留学。帰国後、写真雑誌編集部に勤務したのち独立。電波の届かない山の中でもスマートフォンで位置情報がわかる登山者用地図アプリYAMAPを生み出す。月間ページビューは約1.5億を超え、日本最大の登山アプリとなる。「GOOD DESIGN AWARD」「ものづくりデザイン賞」など受賞多数。2018年には内閣府が主催する第3回宇宙開発利用大賞において。人命救助に役立っている点も評価され内閣府特命担当大臣(宇宙政策)賞を受賞。