#11 作家 山口 幸三郎 (やまぐち こうざぶろう) - アクロス福岡
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#11 作家 山口 幸三郎 (やまぐち こうざぶろう)

作家 山口 幸三郎 (やまぐち こうざぶろう)

小さい頃から特別に読書家だったというわけではなく、漫画と半々くらいに活字本も読んでいたというくらいですね。ただし、宗田理(そうだおさむ)さんなど好きな作家のシリーズものは全巻一気に読んだりはしていました。そういえば、小学校最後の図工の時間に「好きなものを作っていい」と言われて、段ボールを表紙に据えて中に紙をとじ、「本」そのものを作ったことがありました。今思えば、「本」が好きだったのかな(笑)。また、卒業作文でクラスのみんなが「6年間の思い出」を書いていたときに、私だけ「実際に体験した怖い話」を物語仕立てにして書き、先生に本当にそれでいいのかと言われたのも覚えています。一つ一つ、「実は〇〇くんの仕業だった」というオチを明かしていくのですが、最後の一つだけ謎のまま終わらせているんですよ。既にその頃から、文章で誰かを面白がらせるのが好きだったのかもしれませんね。
福岡から東京に居を移して感じたのは、クリエイティブな人がとにかく多い町だということ。情報の発信源のほとんどは東京なので、自然と目指す人が集うのでしょう。喫茶店のウエイターさんが役者志望、なんてざらにあります。そういうところで新たな出会いをもらい、常に刺激を受け続けられるのは作家として非常にありがたいですね。ただ思春期を福岡で過ごせたことも、大きな影響があったとは思います。私は宇美町の出身ですが、東京に比べるとやはり車社会なわけで、年頃になるとみんな免許を取るんです。そうすると、車という自由な行動範囲を手に入れることになる。東京で遊ぶとなると、地下鉄や電車の範囲内で遊興施設に行くことが多いと思いますが、福岡だと車で「どこか」に行くのがもっぱらの遊び。まだ行ったことがない土地、知らないエリア、何があるかわからないところにフラリと行くというのは、あの頃の五感を大きく成長させてくれたように思えます。想像力を高めてくれましたね。それがあったからこその、東京でのクリエイティブ魂が生きるのかもしれません。
作家という職業は、年齢制限もなければ定年退職もない。しかもなりたいと思えば、資格も試験もいらず、パソコン一台あれば誰でもできる仕事です。いわば、ライバルは無尽蔵(笑)。だからこそ、厳しさを感じますね。私の原作がドラマ化され、人気を博しましたが関わってくださった皆さんが優秀すぎて、原作者の存在感は発揮できなかったんです。作者が私じゃなくても面白くなっただろうな、と客観的に思ってしまいました。だからこそ、作品名よりも作家名で選ばれるような作家になりたい。山口幸三郎作品なら、何であっても読む、と思ってもらえるブランド力を身に付けたいですね。自分の作品を最初に読む読者は自分なので、いつも最も厳しい読者の目になって読むことを心がけています。この「客観視」が作家には一番必要な能力だと思っているから。取材に間違いはないか、わかりにくい点はないか、データに間違いはないか等々、誰よりも厳しくまず目を通します。そう考えると、最初のハードルは低いけど、生き残るハードルはとてつもなく高い職業だとも思います(笑)。
故郷・宇美町の図書館で講演させていただいたご縁もあって、図書館内に「山口幸三郎文庫」なる書架を作ってもらったんです。また、私の出身小学校では、卒業生が作家になったという話から、在校生の図書館利用率が飛躍的に上がったとか。そういう話を聞くとうれしいですね。まずは本を読む楽しさを子どもたちに知ってもらい、未来の読者を多く作るのが、われわれの使命だと思っています。

(文・上田瑞穂)

プロフィール 1983年、福岡県糟屋郡宇美町生まれ。2008年「語り部じんえい」で第15回電撃小説大賞選考委員奨励賞を受賞、同作を「神のまにまに!」に改題してデビュー。2010年に出版された「探偵・日暮旅人シリーズ」は2015年にテレビドラマ化、2017年に連続ドラマ化され、大人気シリーズとなった。「天保院京花の葬送シリーズ」「猫曰く、エスパー課長は役に立たない」など、次々と人気作を世に送り出している。