#14 柳川川下り船頭 田野井 希美(たのい のぞみ) - アクロス福岡
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#14 柳川川下り船頭 田野井 希美(たのい のぞみ)

柳川川下り船頭 田野井 希美(たのい のぞみ)

よく、「どういった経緯でこの仕事に?」と聞かれますが、実は求人票を見て出合うという意外な始まり方なんです。柳川市に隣接する大牟田の出身なので、「小さいころから憧れてたんでしょう?」なんて言う方もいらっしゃいますが、近くに住んでいると案外乗らないものなんですよ。小学生くらいのときに一度乗ったきりだったかな?その時も船の記憶はあったものの、船頭さんについてはあまり覚えていないくらいでした。
運命の出合いがあったのは、22歳のとき。建設会社の営業職を辞め、次の仕事を探しているときに求人票に「柳川の川下りの船頭」と書かれていたのが目に飛び込んできました。デスクワークは性に合わず、身体を動かして働きたいと思っていたので「面白そう!」と早速申し込みに行くと、係の人に「本当に大丈夫?」と心配されたのを覚えています(笑)。
実際に入社してからはハードでしたね。先輩方の動きを見ていると「できそうかな」なんて思っていた竿さばきが全くできないんです。緩やかな流れでも船を操るのはとても難しく、入社から1か月間は朝から晩まで、文字通り一日中練習を繰り返していました。9月に入社したので、ちょうど台風シーズン。雨が降っても風が吹いても、毎日毎日竿さばきの日々でしたね。一方で、船頭にもう一つ必要なのはガイド力。「北原白秋って何作った人だっけ?」くらいの知識だった私は、こちらも必死に勉強しました。この街の歴史や人物、文化から民謡まで。この時期を思い返すと、今でも「ようやったね」と自分で思えるほど、毎日脳と身体をフル活動して吸収していました。
お客さまを乗せ始めてからは、新たな発見の連続でした。川沿いの木々や花などの質問を受けることが多く、目につく植物の名前などは手あたり次第に覚えました。お客さまの質問から学ぶことは多いんですよ。「こういうことを聞かれるのか」と、想像以上の質問をいただくと、ハッとしますね。ガイド中はお客さまの目線やちょっとした会話に気を配り、目線の先にあるものを先にご説明したり、疑問を口にされていたらすぐに回答するなど、心掛けています。会話が一方通行にならないよう、船に乗る全員が一緒に楽しめる時間を作るのがガイドの力量だと思っています。
おかげで7年経った今となっては、少しは技術や対応力も身に着いたかなと思いますね。先日乗っていただいたご年配のお客さまから「良か仕事しとるね。自信をもって続けんとね」と言っていただいたんです。人生の先輩からそんな風に思ってもらえる仕事に就けたんだなと、ジーンときました。「女性船頭」なんていう肩書ではなく、「田野井さんの船に乗りたい」と選んでいただける船頭になりたい。現在は、昔の私のように近隣から来られる方は少なく、県外や海外など遠くからのお客さまのほうが多いのですが、この現状も打開したいですね。県内の皆さまにも、納涼船やこたつ船など季節ごとに乗りたいと思っていただけるような仕掛け作りをさらにしていかなくては。福岡を代表するアクティビティになるよう、町の皆さんとも協力して盛り上げていきたいです。

(文・上田瑞穂)

プロフィール 福岡県大牟田市出身。建設会社の営業職から一念発起し、2012年9月に現職に。2019年1月現在、柳川に60名ほどいる船頭のうち、女性船頭はわずか2名のみ。