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#15 アーティスト 冨永 ボンド(とみなが ぼんど)

アーティスト 冨永 ボンド(とみなが ぼんど)

実は初めて絵を描いたのは今から約10年前、26歳のときなんです。それまではグラフィックデザインを独学で学び、CDジャケットやイベントポスターを作るなど音楽関係の仕事をしていました。多くのイベントに関わる中で、DJやダンサーたちのように自分でも何か表現をしてみたいと思ったのが、この世界に足を踏み入れたきっかけ。グラフィックでは、コラージュデザインが得意で、PCの画面上で画像をくっつけていく技法を用いていたので、「ボンドグラフィックス」という屋号を使っていたんですよね。それなら画面上ではなくリアルでも、ボンドを使って色と色をつなぐ作品を作ってみたらどうかと試みたんです。さまざまな色を塗って、最後にその境を黒く着色したボンドで縁取っていく…こうして現在の創作スタイルが出来上がりました。
ボンドを画材に選んだ理由は大きく二つあります。一つは「接着する」という明確なコンセプトを打ち出せるから。作家活動を通して目標にしているのは、アートと医療と地域と世界、この4つの分野をつなぐ役割を担うことなんです。ボンドアートを始めてから、自分自身の「精神医療・福祉の世界に寄与したい」という想いを具現化するために、年間50回くらいのワークショップを行っています。障がい者施設や病院、学校などを回り、延べ5000人くらいの方と一緒にアートを作り続けてきましたが、さまざまな問題を抱える社会の中で人と人を「つなぐ=接着する」ことができるのはアートの力だと再認識しました。
もう一つの理由は、ボンドの持つ大衆性です。木工用ボンドを今まで一度も手にしたことがない人って、ほとんどいないでしょう?欧米に比べてアートに対する敷居が高く、なかなか日常生活にアートが溶け込まない日本の実情を打開する一策として、圧倒的な大衆性を持つボンドを用いようと思ったんです。「なんでボンド?」「ボンドで何するの?」という単純な興味から入ってきてもらえれば、アートはもっと身近になるのではないかと。アートの大衆化というのも、私が目指すものの一つです。
子どもたちに向けたワークショップもよく行っていますが、いつも心掛けているのは「色がいいね」等、具体的に褒めること。「上手だね」とは言わないんです。だって、絵に上手下手はないですから。アートには優劣もなければ失敗もない。誰もが自由に表現できることこそ、アートの強みです。そして強く伝えているのは「夢は口に出す」「相手に感謝する」「あきらめない」、この3つ。私自身、夢を口にし続けることで作品を多くの方に知ってもらい、たくさんの方の協力をいただき、何のコネもない中でNYやパリに単身乗り込んで行った経験があります。伝える言葉の力と、周りの人の力、そしてあきらめない行動力を信じて、どうにかここまで切り拓いてきました。たまたま移り住んだ多久でも、この3つの力のおかげで、まちづくり協議会の部会長となり、多くの人と一緒に街の活性化に取り組んでいるんですよ。今は多久を日本一のウォールアートの街にしようと目論んでいます。

(文・上田瑞穂)

プロフィール 福岡市生まれ、佐賀県多久市在住。木工用ボンドを使った「ボンドアート」と呼ばれる独自の画法を生み出し、国内外で活躍中。2014年NYで開催された世界最大級のアートフェス「ART EXPO NEW YORK 2014」、2016年ルーブル美術館で開催された「Art shopping」等に出品し、それぞれ高く評価された。RKBラジオ、NBCラジオパーソナリティ。西九州大学助手。自身のアトリエ「ボンドバ」では週に一度barを開き、月に一度アトリエ開放日を設けている。