#16 アーティスト 香月 美菜(かつき みな) - アクロス福岡
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伝えたい文化の魅力 NEO

#16 アーティスト 香月 美菜(かつき みな)

アーティスト 香月 美菜(かつき みな)

小さいころから「何かを自分の手で作る」ことが好きだったような気はしますね。リカちゃん人形で遊ぶよりも、リカちゃん人形の洋服を作るほうが好きだったり。母も洋裁好きだし、父もよく日曜大工をしてましたし、モノヅクリが好きな家系なのかも。そういえば、現在アトリエにしているのは昔、祖父が住んでいた築50年の家屋なんですけど、よく眺めてみるとあちらこちらに修繕したり、祖父が手を加えた跡があるんですよ。昔から「壊れたら買い直す」ではなく「直すか自分の手で新たに作り出す」ことを選んできたのは、こういった家庭で育ってきたからでしょうか。曾祖父は刀鍛冶だったのですが、時代が変わり必要のなくなった軍刀を包丁に打ち直して曾祖母に贈った、なんて話も父から聞いたことがあります。徹底したモノヅクリ家系でしょう?(笑)
小二から中二までは父の仕事の都合で、フィリピンで過ごしました。現地の日本人学校では、基本的には自主独立の方針で教育を受けていたので、日本に帰ってきて驚きました。進学校と呼ばれる公立高校に入ったのですが、まるっきり違いすぎて。大学進学へのレールが敷かれているばかりか、「〇〇大学の見学には全員行きなさい」なんてことまで言われて、人生がマニュアル化されそうで怖かった。もともと反骨精神がありすぎるほどある性格なんですけど、この時に強く「自分の生き方は自分で作りたい」と思いました。道を「選ぶ」のではなく「作る」んだと。そうして美大に進むことにしたんです。
日本の美術には強い興味を惹かれていました。ただし、人格形成の大切な時期をフィリピンで過ごしたからか、私が思う「日本美術の良さ」は、一般的な日本人の思うそれとは違うかもしれません。繊細な日本画のタッチや静謐さに惹かれるというよりも、書道の勢いのある一筆とか、偶然から生まれた陶器の色合いといったような、日本の美の潔さに魅せられます。国内外で評価していただく私の作品も、実はその「日本らしい潔さ」を表現しているつもりです。私は青だけで207色を作りだすことができるのですが、その全ての色を使って10時間かけてキャンバスに絵具をのせていき、それを最後に一筆加えるのみで作品を作り出しています。最後の瞬間の緊張感は途轍もないものですが、そこに日本らしい美が宿っていると思っています。
私が目指しているのは、「お地蔵様のような作品」。お地蔵様って名前も知らなくても、何かのときにふと手を合わせたり、想いをつぶやいたりする存在ですよね。どこかの神社に奉納されている恭しい作品ではなく、ふと身を寄せたくなる身近な存在。アートがそうなればいいなと思っています。投資対象になるものや、最新技術を用いてエンターテインメント性を持つものなど、さまざまなアートがこの世に存在するのはいいことだと思いますが、自分自身が目指したいのは、人々の生活に寄り添えるような、小さな祈りの対象としてのアート。メッセージ性なんてなくていいんです。「人の人生を変える一枚」なんて目指してませんから。ただ寄り添い、目にしてくれた方がそれぞれ何かを感じてくだされば嬉しいですね。

(文・上田瑞穂)

プロフィール 福岡県北九州市生まれ。京都造形芸術大学大学院芸術表現専攻修士課程修了。2015年「トーキョーワンダーウォール2015」大賞、2016年「a.a.t.m 2016」SHU UEMURA賞など、才能ある若手アーティストを称える数々の受賞をし、ソウルや高雄など海外での個展も行っている。現在は京都を中心に国内外で活動。今夏開催される「九州インターナショナルアートキャンプ2019」の運営理事長。