#24 株式会社SAITO 代表取締役社長 斉藤 昌平(さいとう しょうへい)
父が立ち上げた建築事務所を継承したのが2009年のこと。それまでも「特定の場所・土地・まちに建つものをつくる建築家という仕事は、ただ建てるだけではなくその一部となるまちにも関わっていくべき」という想いから、まちづくりイベント等にはボランティアベースで積極的に携わってきました。その想いが大きくなるにつれて、イベント自体の規模も膨らんでいき、それまでの「建築事務所」という枠組みに限界を感じるようになっていったんです。そこで2017年に社名を「ハコと場をつくる 株式会社SAITO」に変え、組織形態も改めました。社名に付けた冠こそが、我々のメッセージ。ハードとしての建築物=ハコを作るだけではなく、そのハコが存在するまち=場も整えていこうというのが、込めた想いです。ハコづくりを生業とする私たち建築家は、建造物が完成するまでが仕事と思いがちですが、大切なのはその後ですよね。ハコができた時点がゴールではなく、スタート。そこで暮らす人やその周りで関わってくる人などが動き出して初めて、ハコに血が通い始めるんです。それを長い目で見続けたいという想いから、幼少期から育った箱崎というまちに積極的に関わるようになりました。
35年ほど前に父が事務所を移転したのが当社と箱崎の縁の始まりなのですが、私自身は幼少期からずっとこのまちで育ってきましたので、地元であり故郷です。この地を「選んだ」父にその理由を尋ねると、「長い歴史が紡がれているまちだから」と返ってきました。この地のシンボルとなっている筥崎宮は千年以上の歴史を誇っており、近代では百年の歴史を持つ九州大学もまちの顔。このまちには連綿と「まちの歴史」が紡がれているのです。残念ながら九大は移転され、その跡地の活用が話題となっていますが、私たちは全てを再開発するのではなく、少しでもいいからその一部の建物を残すよう活動を続けてきました。なぜならば残った建物が歴史を引き継ぐからです。「空間は時間を引き継ぐ」、これが建築家としての私の信念。時間が続いていることを証明できるものは空間しかないのです。だからこそまちを根こそぎ再開発するのではなく、古いまちの記憶を留める場所を、古いまちと新しいまちの接点を、少しでもいいから残しておくべきだと思うのです。
そう思うきっかけになったのは、大学時代に一カ月ほど旅をした欧州の街並みを見てからです。古い建物が残るたくさんのまちで人々が実に楽しそうに暮らしているのを見て、「まちってこんなに豊かなんだ」と初めて肌で感じました。そこで生きる人々が、安心感と愛着を持っているのが伝わってくる。古いものが身近に残っていると人々は安心するんですよ。逆にいうと、まちの景色が一変するとその土地の記憶が失われる。するとそこで暮らす人々は、深い部分で精神的に不安定になると思うんですよね。
そういった経験を得たからこそ、我々が手掛けるまちづくりは、「引き継いでいけるまち」を目指しています。古いまちと新しいまちをどのように調和させるかも大切な命題。例えば、放生会の期間であれば、お宮の賑わいを商店街や大学通り、まち全体にもどう広げていけるかを考え、ハコフェスというまちぐるみイベントをもう16年間も開催し続けています。そのまちに住む人たちがより愛情と愛着を持って、まちの文化を引き継いでいけるように。微力ながらそのお手伝いができればと思っています。
35年ほど前に父が事務所を移転したのが当社と箱崎の縁の始まりなのですが、私自身は幼少期からずっとこのまちで育ってきましたので、地元であり故郷です。この地を「選んだ」父にその理由を尋ねると、「長い歴史が紡がれているまちだから」と返ってきました。この地のシンボルとなっている筥崎宮は千年以上の歴史を誇っており、近代では百年の歴史を持つ九州大学もまちの顔。このまちには連綿と「まちの歴史」が紡がれているのです。残念ながら九大は移転され、その跡地の活用が話題となっていますが、私たちは全てを再開発するのではなく、少しでもいいからその一部の建物を残すよう活動を続けてきました。なぜならば残った建物が歴史を引き継ぐからです。「空間は時間を引き継ぐ」、これが建築家としての私の信念。時間が続いていることを証明できるものは空間しかないのです。だからこそまちを根こそぎ再開発するのではなく、古いまちの記憶を留める場所を、古いまちと新しいまちの接点を、少しでもいいから残しておくべきだと思うのです。
そう思うきっかけになったのは、大学時代に一カ月ほど旅をした欧州の街並みを見てからです。古い建物が残るたくさんのまちで人々が実に楽しそうに暮らしているのを見て、「まちってこんなに豊かなんだ」と初めて肌で感じました。そこで生きる人々が、安心感と愛着を持っているのが伝わってくる。古いものが身近に残っていると人々は安心するんですよ。逆にいうと、まちの景色が一変するとその土地の記憶が失われる。するとそこで暮らす人々は、深い部分で精神的に不安定になると思うんですよね。
そういった経験を得たからこそ、我々が手掛けるまちづくりは、「引き継いでいけるまち」を目指しています。古いまちと新しいまちをどのように調和させるかも大切な命題。例えば、放生会の期間であれば、お宮の賑わいを商店街や大学通り、まち全体にもどう広げていけるかを考え、ハコフェスというまちぐるみイベントをもう16年間も開催し続けています。そのまちに住む人たちがより愛情と愛着を持って、まちの文化を引き継いでいけるように。微力ながらそのお手伝いができればと思っています。
(文・上田瑞穂)
プロフィール
1977年生まれ、福岡市東区育ち。九州芸術工科大学芸術工学部環境設計学科卒業。2009年に家業を継承、2017年には「ハコと場をつくる 株式会社SAITO」へ改名改組し、代表取締役社長となる。現在、福岡大学工学部建築学科非常勤講師、日本デザイナー学院ソーシャルデザイン科講師、九州大学大学院芸術工学府非常勤講師。放生会特別企画ハコフェス等の主催も行う。