#27 坂田織物代表取締役 坂田 和生(さかた かずお)
2017年、新しい販路を求めて単身ニューヨークに乗り込みました。国内は人口減少が続き、労働人口も減る一方のこの業界の将来を見据えたときに、どうやったら事業を継続できるのかを考える段階に来ていると感じたからです。
25歳の時に関西から故郷に戻ってきて、家業に入社しました。その時に改めて感じたのが伝統工芸という世界の厳しさ。父や母が一生懸命に頑張ってくれたおかげで現在の家業がありますが、一方で幼少期は両親の苦労する姿も見てきました。昼夜を問わず休みなく働き、伝統を守り続けて奮闘するものの、正直その対価は少ない。家族である自分は当然この家業を守りたいと粉骨砕身する決心はありましたが、第三者が果たして働きたいと思える環境なのか。事業として、持続可能な業界なのか。そんなことを日々考えていました。
その「持続可能な事業」になるために、何をすべきなのか。入社以来さまざまなチャレンジをしてきましたが、そのすべてはこの問いに対する答えのつもりです。そもそも久留米絣とはどういうものなのかというと、織る前の糸を縛り、染めてほどいたところが白くなることで文様を生み出す、という独特の技術を要する工芸品。染色、織りのみならず、縛りという専門の職人も必要になり、世界的にみても驚くほど複雑な工程を経ている布なんです。その価値は普遍的なのではないかと思い、海外へ出てみることを決意しました。日本では重要無形文化財と認定され、一種「守られている」意識もありましたが、そうではない土地でどのくらい勝負できるのか、と思ったのです。
初めて渡米したときは打ちのめされましたね。展示会に行っても、久留米絣どころか「イカット(絣)」という言葉さえ浸透していない。誰も知らないんです。ここでどうしたら認知度を上げられるのかを考えた末、「そうか、そもそも興味を持ってくれる人たちを探そう」と思い当たり、世界三大デザイン学校とも呼ばれているパーソンズ美術大学でレクチャーをさせていただく機会を得ました。アナスイやマークジェイコブズなど、錚々たる卒業生を誇る学校です。ここで久留米絣の紹介をすると、こんな製造法で文様を生み出す文化があるのかと驚き、また歴史にも敬意を表してくれましたね。若い学生たちが口々に鳥肌が立ったなどと言ってくれ、手ごたえを感じました。その後ご縁もあり、現地でもんぺの販売を希望してくれるセレクトショップにも出合い、初めて持って行った30本がわずか2カ月で完売したのです。一本300ドルもするんですよ。自然素材なので風合いがいい、丈夫なのでルームウエアにも最適だ、と。この反応は嬉しかったですね。こうして海外での評判が広がることで、その噂が逆輸入されて日本でも改めて商品が見直されたり、職人たちが誇りを取り戻したりすると思うんです。アメリカで売ることが目的ではなく、販路を広げる一方でこうしたいい影響が循環することで、今後の事業の継続が可能になる。それこそが目的です。この学校とのつながりは今後さらに深めて、例えば学生たちをインターンシップで広川町に呼び、実際に織る体験などしてもらいたい。長い時間軸で、家業も業界全体も、継続していく仕組みを作っていければと思っています。
25歳の時に関西から故郷に戻ってきて、家業に入社しました。その時に改めて感じたのが伝統工芸という世界の厳しさ。父や母が一生懸命に頑張ってくれたおかげで現在の家業がありますが、一方で幼少期は両親の苦労する姿も見てきました。昼夜を問わず休みなく働き、伝統を守り続けて奮闘するものの、正直その対価は少ない。家族である自分は当然この家業を守りたいと粉骨砕身する決心はありましたが、第三者が果たして働きたいと思える環境なのか。事業として、持続可能な業界なのか。そんなことを日々考えていました。
その「持続可能な事業」になるために、何をすべきなのか。入社以来さまざまなチャレンジをしてきましたが、そのすべてはこの問いに対する答えのつもりです。そもそも久留米絣とはどういうものなのかというと、織る前の糸を縛り、染めてほどいたところが白くなることで文様を生み出す、という独特の技術を要する工芸品。染色、織りのみならず、縛りという専門の職人も必要になり、世界的にみても驚くほど複雑な工程を経ている布なんです。その価値は普遍的なのではないかと思い、海外へ出てみることを決意しました。日本では重要無形文化財と認定され、一種「守られている」意識もありましたが、そうではない土地でどのくらい勝負できるのか、と思ったのです。
初めて渡米したときは打ちのめされましたね。展示会に行っても、久留米絣どころか「イカット(絣)」という言葉さえ浸透していない。誰も知らないんです。ここでどうしたら認知度を上げられるのかを考えた末、「そうか、そもそも興味を持ってくれる人たちを探そう」と思い当たり、世界三大デザイン学校とも呼ばれているパーソンズ美術大学でレクチャーをさせていただく機会を得ました。アナスイやマークジェイコブズなど、錚々たる卒業生を誇る学校です。ここで久留米絣の紹介をすると、こんな製造法で文様を生み出す文化があるのかと驚き、また歴史にも敬意を表してくれましたね。若い学生たちが口々に鳥肌が立ったなどと言ってくれ、手ごたえを感じました。その後ご縁もあり、現地でもんぺの販売を希望してくれるセレクトショップにも出合い、初めて持って行った30本がわずか2カ月で完売したのです。一本300ドルもするんですよ。自然素材なので風合いがいい、丈夫なのでルームウエアにも最適だ、と。この反応は嬉しかったですね。こうして海外での評判が広がることで、その噂が逆輸入されて日本でも改めて商品が見直されたり、職人たちが誇りを取り戻したりすると思うんです。アメリカで売ることが目的ではなく、販路を広げる一方でこうしたいい影響が循環することで、今後の事業の継続が可能になる。それこそが目的です。この学校とのつながりは今後さらに深めて、例えば学生たちをインターンシップで広川町に呼び、実際に織る体験などしてもらいたい。長い時間軸で、家業も業界全体も、継続していく仕組みを作っていければと思っています。
(文・上田瑞穂)
プロフィール
1977年生まれ、坂田織物3代目。大学卒業後、一時はお笑い芸人を目指すが相方がやめたこともあり、家業であるファッションの世界へ。大手アパレルブランドに2年勤め、2002年25歳のときに坂田織物に入社する。2013年新ブランド「TUGU」を発表、2017年からはニューヨークへも進出し、新たなチャレンジを続けている。2020年重要無形文化財技術伝承者。