#29 オカリーナ奏者 弓場 さつき(ゆば さつき) - アクロス福岡
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#29 オカリーナ奏者 弓場 さつき(ゆば さつき)

オカリーナ奏者 弓場 さつき(ゆば さつき)

「なぜ他の楽器ではなくてオカリナだったのか」とよく聞かれるんですけど、この楽器に出逢ったきっかけは「となりのトトロ」です。私の名前を見てピンとくる方がいらっしゃるかもしれませんが、実は弟の名はかんた。父が二人の子どもにキャラクターの名を付けるくらい、トトロファンなんです。小さいころから繰り返し作品を観て、作中に出てくるオカリナという見慣れない楽器に憧れを抱き、小学5年生のときに両親に頼んで買ってもらいました。それが最初の出逢いです。早速喜び勇んで、見よう見真似で吹いてみたら、全然音が出ないんです。近所のオカリナ教室で習い始めてからその理由がわかりました。両親がネットで買ったオカリナは、絵付け用のもので音楽を奏でる目的のものではなかったんです(笑)。
そんな笑い話から始まったオカリナとの二人三脚ですが、中学時代は先生と一緒に老人ホームへ慰問演奏に行ったりして、「誰かが喜んでくれる」ことに何よりもの喜びを感じていました。その後高校になるとプロの演奏家である別の先生に出逢い、その方の教えを受けるために大分県まで通うように。このころに真剣に悩んでいたのは、進路についてでした。父が医療系の仕事をしていたこともあり、漠然と高校の医学部進学コースに通っていたのですが、医者になるのかオカリナを選ぶか、日々悩み続けていました。オカリナは音大で学ぶものでもないので、医学部に進むか高卒でオカリナの修行に入るのかの二択。「オカリナ奏者になれば、自分から世界中どこへ赴いても仕事ができる、そんな前向きな仕事を天職にしたい」と自分なりの結論を見出して、大学に進学しないことを選んだのですが、その選択が正しいのかどうかの判断もできなくて。周りのクラスメートが受験勉強で目の色が変わっていく中、「オカリナでやっていく」と言うこと自体が恥ずかしいと思うときもありましたね。しかし決意は固く、両親も私が頑固なことを知っていたので半ばあきらめるように許してくれました。高校卒業後は、現在も師と仰ぐ大沢聡氏のもとで修業をするために山梨に移住し、そこで9年間学び、独立して福岡に戻ってきました。
オカリナというと「中高年以上の趣味だよね」とか「ヒーリングミュージックでしょう?」等、さまざまなステレオタイプなイメージで語られることが多いようです。確かにそういった側面もありますし、何より土から作られる唯一の楽器なので、人々を癒せる音色を持っていることは間違いありません。ただし、それだけ、ではない。無限の可能性を秘めているので、世界中の音楽シーンで愛される楽器の一つになるポテンシャルがあると私は思っています。今はクラシックをオカリナで演奏する活動をしているのですが、オーケストラの一部に加わってみたり、管弦を含むさまざまな楽器と一緒に演奏する機会が増えると嬉しいですね。また、私自身一生付き合いたいと思える音色に小5で出逢えたので、そんな子どもたちを増やせるよう、オカリナの魅力を広く発信し続けていきたいと思っています。

(文・上田瑞穂)

プロフィール 1991年、福岡市生まれ。10歳よりオカリナを始め、2010年より山梨県に移住し大沢聡氏に弟子入りする。2011年第46回国際芸術連盟新人オーディションで審査員特別賞並びに奨励賞受賞。2013年ファーストアルバム「Strada」を発表。現在は国内外で演奏家・講師として活躍中。