#30 画家 生島 国宜(いくしま くによし) - アクロス福岡
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#30 画家 生島 国宜(いくしま くによし)

画家 生島 国宜(いくしま くによし)

小さいころから絵を描くのは好きでしたが、本格的に出会ったのは中学生の時でしょうか。父親が若いころに油絵を趣味で描いていて、その画材が家にあったので軽い気持ちで手に取ったんです。使い方を教えてもらって描き始めると、とても心が落ち着いたのを覚えています。それから毎日のように描くようになりました。
高校は一度は普通科に進んだのですが、進学校に入ってしまいついていけなくて退学。その後デザイン科のある高校に入学し直しました。描くことが好きだったのでデザイン科を選んだのですが、当時は美術とデザインの違いも知らなかったんですよね。毎日絵が描けると思って入学したのに、色の構成や理論の授業が多くて、こんなはずじゃなかった…なんて嘆いたりして。親と約束した手前頑張って卒業しましたが、今思えばこのときにデザインを学んだことが大きな糧になっています。若い時は気づかずに思い悩んだことも、あとから振り返ると決して無駄ではなかったと思うことが本当に多い。その繰り返しです。
美大を卒業したのは2003年。ちょうど、氷河期と言われていた時代です。就職活動をしようという気すらなく、卒業したらアルバイトをしながら絵を描こうと何の迷いもなく思っていました。社会状況の変化の中で、大学を出たら就職して定年を迎えて年金をもらって…というような生き方を、私自身が信じられなくなったんです。周りの美大や美術関係者にも、それまでの既存のレールとは違う道を選んでいる人も多く、結局私も今まで就職を一度も経験していません。絵だけで余裕で食べていける、というわけじゃないんですよ。未だに展覧会で一枚も売れないこともあります。それでも美術に限っていうと、挫折を感じたことはないんですよね。描きたいものがある限り、描き続けようと思うだけです。しかしその、「描きたいもの」が多すぎて…。昔はインスピレーションを得るのは魚釣りのようなものだと思っていました。ふと釣れる一瞬のために、釣り糸を垂れて待つ時間を大事にしようと思ってきたのですが、最近ではいつでも釣れちゃうんですよ(笑)。日常にインスピレーションのヒントがあふれていて、描くスピードが追い付かなくなってきました。身の回りにあるすべてのものにインスピレーションを感じるので、一生かかっても描ききれないくらいアイデアがあります。
これまでは自分の気分にはまるものを思うままに描くことが多かったのですが、これからは人の要望を汲んで作品を作ってみたいですね。ギャラリストや学芸員の方たちと一緒に展覧会をしたり、「こういう作品を作ってください」という要望を聞いてそれに応えられるものを描いたり。コロナ禍で人と接触する機会が減ってあらためて感じたのは、人間同士が手を携えることができる尊さ。実際に人に会う楽しさや、画面を通してではなく直接目で作品を観られる喜びを痛いほど感じたので、早く展覧会などで同じ空気をみんなで共有できる空間を作れたら、と切に願っています。

(文・上田瑞穂)

プロフィール 1980年福岡県生まれ。武蔵野美術大学油絵学科卒業。福岡、東京、兵庫、台北など、国内外で個展やグループ展を多数開催。2009年に作品集「夜冷耳目」を制作した。