#36 手織博多織工房 はかたび代表 ひろわたり ちはる - アクロス福岡
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伝えたい文化の魅力 NEO

#36 手織博多織工房 はかたび代表 ひろわたり ちはる

手織博多織工房 はかたび代表 ひろわたり ちはる

博多織手織技能士として歩み出したのは、他の人よりも遅いかもしれません。大学では漫画研究同好会に所属し卒業後、一般企業に就職して約10年、北部九州を中心に転勤を繰り返していました。県外に出ると、帰省するたびに福岡の良さに気づくんです。最先端の文化と古い寺社などが見事に融和しているこの町の魅力に、外に出てみて初めて気づきました。考えてみると、福岡では必ず山笠を間近で見ていましたし、県外の時も早朝からテレビで一番山笠を観てから出勤するほどの山笠のぼせ。自分が育ったこの町が大好きなことに気づき、この地で一生続けられる仕事をしたいと思っていたときに出会ったのが、博多織学校でした。伝統工芸というのは住み込みで修業などをしないと習得できないものだと思い込んでいたので、広く門戸を開いていることに驚くとともに、自分もやってみたいと強く思いました。伝統工芸って、何代にもわたって大切にされますよね。自分が死んだあとも生き続ける作品って素敵だなぁ、と。
そうして入学したのですが、始めは苦労の連続でした。博多織に必要な染色・意匠・着尺設計など専門分野のほか、華道や茶道など日本の伝統文化に加え著名な文化人・服飾や各種デザインといったあらゆるジャンルのプロフェッショナルから貴重な授業を受けられるのです。嬉しい反面、ついていくのに必死で。どれも聞き逃せないものばかりだったので、会得しようと集中し続けていました。実技も相当な時間を要するので、一日十数時間学校に詰めていた時も。毎日現役伝統工芸士によるご指導のもと、絹糸の結び方など基礎から五献上を学びます。その後、三献上・総浮・絵緯博多・佐賀錦など細かな気遣いや技術を要する織り方まで、各自選択します。そのなかで、私が魅了されたのは「絵緯博多」。博多織の中で唯一、緯糸の色が強く出る仕様で、色をポイント的に入れることができ自由に絵柄が織れ、柔らかめな織物であるのが特徴です。私自身もともとサブカルチャーや可愛いものが好きだったので、この織り方でこれまでにはない作品を作りたいと思いました。他の人とは違う、私独自の博多織の世界を模索したのです。
博多織学校を創設された庄嶋理事は『世界に通じる博多織の創造』を掲げ、学長である小川規三郎先生は「止まれば歴史、続けば伝統」と常々新しいチャレンジを理解してくださいます。もちろん博多織として守らねばならぬルールはしっかり順守したうえで、同じところで足踏みせずに前へ進みたい。本来工芸品は『人に寄り添ってこその美』だという小川先生の影響を受けた私自身、成人を過ぎ博多織を知り、込められた想いに気づいた一人として、もっと気軽に文化を身に着けていただきたいと思っています。そういった意味で博多織の中でも、流通の少ない手織の小物やワークショップに特化した独自の展開をしていきたい。
約780年の伝統を受け継ぐものの一人として、時代に寄り添う博多織の新たなシーンも作り出したいと思っています。

(文・上田瑞穂)

プロフィール 福岡市出身。九州産業大学卒業後、一般企業に就職。2014年博多織ディベロップメントカレッジに入学。2016年博多織手織技能士認定を受け、同年より福岡市にて手織博多織工房 はかたびを運営している。