山本作兵衛コレクション
<後>
▲1「寝掘り」(1964年12月)。炭層が低いため立つことができず、寝た状態で採掘している。男女のペアは、夫婦が多かったという。
▲2「おいつつ(お手玉)」(1964~1967年頃)。女の子たちがお手玉で遊んでいるが、よく見ると母親の代わりに子守りをしているのが分かる。
日本の急速な産業革命を伝える私的記録
わが国初の世界記憶遺産として知られる「山本作兵衛コレクション」。697点の資料群のうち585点を占める炭坑記録画は、筑豊炭田の最前線で働いた山本作兵衛氏が、日本の急速な近代化の過程を労働者の視点から詳細に記録したものです。その特徴は、絵の余白に解説文を書き込むというスタイル。公的記録では読み取ることができない現場の生々しさや臨場感が伝わってきます。同じ世界記憶遺産である「アンネの日記」が私的日記であるとともに迫害された人々の記憶とされているように、作兵衛氏の炭坑記録画も同様の意義、つまり「コレクティブメモリー=社会集団が共有する記憶」を見いだせるとして、ユネスコから高く評価されています。
貴重な炭坑記録画からひもとく筑豊炭田
坑内での過酷な労働がうかがえる「寝掘り」(▲1)。「炭丈45cmくらいまでは座って掘るが、それ以下は寝て掘らなければならず能率が上がらない」という旨の解説文が添えられています。一方、「おいつつ(お手玉)」(▲2)で描かれているのは、子どもたちがお手玉で遊ぶ微笑ましい光景。このように炭坑記録画は、炭坑町の生活風景や風俗など、労働以外の様子も多数描かれています。田川市石炭・歴史博物館では585点の炭坑記録画を保存し、原画を年2回公開。学芸員の福本寛さんは「客観的につづられている解説文ですが、作兵衛さんのボキャブラリーに驚かされるし、ウィットに富んでいておもしろい」と、奥深さを語ります。作品を通して、日本の近代化の心臓部となった筑豊炭田の様子をのぞいてみませんか。
次回からは、「明治日本の産業革命遺産 九州・山口と関連地域(県北部)」を紹介します。
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田川市石炭・歴史博物館
田川市大字伊田2734番地1アクセスJR日田彦山線・平成筑豊鉄道「田川伊田」駅より徒歩8分見学
9:30~17:30(入館は17:00まで)お問い合わせ
TEL:0947-44-5745
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田川伊田駅のすぐ北側に鎮座。五穀豊穣や厄除開運などのご利益がある。毎年5月の例祭「川渡り神幸祭」(写真)は、みこしと幟山笠が彦山川を渡る勇壮な祭り。1970年に、福岡県の無形民俗文化財第1号に指定された。
場所:田川市魚町2-30 お問合わせ:0947-42-1135
▲山本作兵衛氏の絵画を展示する田川市石炭・歴史博物館