#7 フランス革命とベートーヴェンのオペラ「フィデリオ」 ♪ベートーヴェン/フィデリオ - アクロス福岡
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歴史を彩った名曲たち

#7 フランス革命とベートーヴェンのオペラ「フィデリオ」
♪ベートーヴェン/フィデリオ

メインイメージ

1805年に初演されたベートーヴェンのオペラ「フィデリオ」は、フランス革命およびそれに続くナポレオン戦争と深い結びつきをもっていた。この作品が初演されたのはナポレオン軍のウィーン侵攻の時期で、オペラはその後改訂されウィーン会議の年の1814年に改訂版の初演が行われた。
ボーマルシェによるモーツァルトのオペラ「フィガロの結婚」の台本原作は、貴族階級への批判と風刺を含んでおり、このオペラはベートーヴェンの「フィデリオ」へと連なっている。ベートーヴェンが移り住んだウィーンで上演されたオペラで重要な意味を持つのが、フランスで活躍したケルビーニ作曲のオペラ「二日間(ドイツ語版 水汲み人夫)」で、そのオペラの台本作家が「フィデリオ」の台本原作を書いたフランスの作家のブイイである。この「二日間」は「フィデリオ」の原型ともいうべき作品で、フランス革命時にブイイが体験した現実が背景となっていた。
「フィデリオ」の原作となったブイイの戯曲は、革命的思想を含んでいるとの理由で、当初ウィーンの検閲当局によって禁止処分が言い渡されたが、この戯曲を台本化したヨーゼフ・ゾンライトナーは、オーストリア・ハプスブルク家皇后が原作の戯曲を評価したとの理由を掲げて、検閲解除申請書を提出して上演にこぎつけるのである。
ベートーヴェンのこの作品では、政敵によって獄舎に繋がれ死刑を目前とした夫フロレスタンを救うべく、妻レオノーレは男装して獄舎に潜り込む。オペラの「夫婦の愛」と言う副題に示されているように、果敢なレオノーレの夫婦愛が主な内容であるが、この作品でベートーヴェンが主張しようとしているのは「愛」だけではない。もう一つのテーマが自由と正義である。刑務所長のドン・ピツァロの悪事が暴露され、監獄から解放された囚人たちが歌う合唱「おお、何という喜び、自由の空気の中で」には、フランス革命の思想が反映している。

ベートーヴェン
西原稔 山形県生まれ。東京藝術大学大学院博士課程満期修了。現在、桐朋学園大学音楽学部教授。18、19世紀を主対象に音楽社会史や音楽思想史を専攻。「音楽家の社会史」、「シューマン 全ピアノ作品の研究 上・下」(ミュージック・ペン・クラブ賞受賞)、「クラシック 名曲を生んだ恋物語」、「クラシックでわかる世界史」などの著書などがある。