#14 ハプスブルク家とブルボン家 ♪チェスティ/オペラ「金の林檎」 - アクロス福岡
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歴史を彩った名曲たち

#14 ハプスブルク家とブルボン家 ♪チェスティ/オペラ「金の林檎」

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17世紀初めにフィレンツェで生まれたオペラは、その後オーストリアにもたらされる。バロック時代において主にオペラが上演されたのは、王族の即位式や結婚式、誕生日などの祝賀の催しの折で、壮麗な舞台はまさに晴れやかな国家的な事業であった。
1666年にオーストリア・ハプスブルク家の皇帝レーオポルト1世とスペイン王女マルガリータ・テレーサとの結婚式がおこなわれ、この婚礼祝宴は一年ものあいだ続いた。この祝宴の最大の催事がアントーニオ・チェスティの作曲したオペラ「金の林檎」である。この作品では遠近法や数多くの場面転換を駆使しており、これらの演出もまた権威の表現の一環であった。
オーストリア・ハプスブルク家はこれまでスペイン王家と代々密接な姻戚関係を結んでいた。レーオポルト1世の父フェルディナント3世の妻マリーア・アンナは、スペイン・ハプスブルク家のフェリペ3世の娘であり、この時の結婚式も贅をつくした壮麗な舞台音楽が演じられた。レーオポルト1世の妹マリーア・アンナはスペインのフェリペ4世に嫁いでおり、近親結婚が繰り返された。
結婚式では宮殿の中庭を舞台にして豪華なパレードが繰りひろげられ、オペラ「金の林檎」の上演のために巨費を投じてコルティーナ劇場が建築された。この上演では、トリトーンが水馬に引かれる場面、幻想的な雲を割って燦然と太陽が輝くシーン、異国の人びと、神話上の動物や女神、そして聖人たちも登場して、67の舞台面をもちいた23回の場面転換がおこなわれ、演出のために各種の機械仕掛けが考案された。
オペラの上演にこれほどまでの巨費が投じられなければならなかったのには理由があった。それはこの結婚式の3年前にフランス・ブルボン家はスペインとの姻戚関係を進める政策から、ルイ14世が壮麗なヴェルサイユの庭園それじたいを舞台として、コメディ・バレ《魅せられた島の逸楽》をスペイン・ハプスブルク家から嫁いだ妻とその母のために催していたからである。ブルボン家はスペインとの姻戚関係を深め、やがてオーストリアはスペインとの関係を失っていくことになる。

教皇マルチェルス
西原稔 山形県生まれ。東京藝術大学大学院博士課程満期修了。現在、桐朋学園大学音楽学部教授。18、19世紀を主対象に音楽社会史や音楽思想史を専攻。「音楽家の社会史」、「シューマン 全ピアノ作品の研究 上・下」(ミュージック・ペン・クラブ賞受賞)、「クラシック 名曲を生んだ恋物語」、「クラシックでわかる世界史」などの著書などがある。