#18 ベートーヴェンの交響曲第9番とフリーメーソン
♪交響曲第9番/ベートーヴェン
ベートーヴェンの「交響曲第9番」は第4楽章が「歓喜の合唱」で締めくくられる。シラー作のこの「歓喜の合唱」のテキストは、元来1785年にドレスデンのフリーメーソンの集会の歌唱のために作られたオード(※1)である。モーツァルトが加入していたことで知られるこのフリーメーソンは、教会や大聖堂の石工たちが「自由・博愛・平等」を信条として組織した団体で、ローマ教皇からたびたび反教会的であるとして非難されるが、とくに18世紀後半以降、王侯貴族までもフリーメーソンに入会し、この思想がヨーロッパだけではなく、新大陸のアメリカにも広まっていく。アメリカのジョージ・ワシントンがフリーメーソンの会員であったことはよく知られている。
1785年にシラーが作った「オード」は独唱者と合唱が対になった構成で、「乞食は王侯の兄弟となる」と歌い、最後は「暴君の鎖を解き放ち・・・絞首台より生還。・・・兄妹よ、死刑宣告官の声も妙に響く」と締めくくられ、身分制度そのものを否定するだけではなく、その後のフランス革命を暗示するようなきわめて激しい内容であった。シラーはその後、穏やかな内容にこのオードを改訂している。ベートーヴェンが用いたのはこの改訂されたテキストである。ベートーヴェンは作曲するにあたり、原詩をそのまま作曲するだけではなく選択して用いている。さらに、原詩の順序も入れ替えており、冒頭にベートーヴェン自身が「おお友よ、これらの調べではない!もっと心地よい調べを歌い始めよう。もっと喜びに満ちた調べを」という詩を付加し、レチタティーヴォ(※2)でこの詩を歌ったのちに、シラーのオードが歌われる。
「自由・博愛・平等」を謳うこのオードは1790年頃にはベートーヴェンの生地ボンにもたらされとみられ、彼が1790年に作曲したカンタータ「レオポルト二世戴冠式カンタータ」の第5曲に「香煙る祭壇に、もろびとよ、ひざまずく」という歌詞が登場するが、この歌詞は「歓喜の合唱」の「汝らひざまずくか、もろびとよ」とよく似ている。ベートーヴェンは若い時期からこのフリーメーソンの思想に共感していたのである。
※1 頌歌(しょうか)のこと
※2 語るように歌う独唱のこと
1785年にシラーが作った「オード」は独唱者と合唱が対になった構成で、「乞食は王侯の兄弟となる」と歌い、最後は「暴君の鎖を解き放ち・・・絞首台より生還。・・・兄妹よ、死刑宣告官の声も妙に響く」と締めくくられ、身分制度そのものを否定するだけではなく、その後のフランス革命を暗示するようなきわめて激しい内容であった。シラーはその後、穏やかな内容にこのオードを改訂している。ベートーヴェンが用いたのはこの改訂されたテキストである。ベートーヴェンは作曲するにあたり、原詩をそのまま作曲するだけではなく選択して用いている。さらに、原詩の順序も入れ替えており、冒頭にベートーヴェン自身が「おお友よ、これらの調べではない!もっと心地よい調べを歌い始めよう。もっと喜びに満ちた調べを」という詩を付加し、レチタティーヴォ(※2)でこの詩を歌ったのちに、シラーのオードが歌われる。
「自由・博愛・平等」を謳うこのオードは1790年頃にはベートーヴェンの生地ボンにもたらされとみられ、彼が1790年に作曲したカンタータ「レオポルト二世戴冠式カンタータ」の第5曲に「香煙る祭壇に、もろびとよ、ひざまずく」という歌詞が登場するが、この歌詞は「歓喜の合唱」の「汝らひざまずくか、もろびとよ」とよく似ている。ベートーヴェンは若い時期からこのフリーメーソンの思想に共感していたのである。
※1 頌歌(しょうか)のこと
※2 語るように歌う独唱のこと
西原稔
山形県生まれ。東京藝術大学大学院博士課程満期修了。現在、桐朋学園大学音楽学部教授。18、19世紀を主対象に音楽社会史や音楽思想史を専攻。「音楽家の社会史」、「シューマン 全ピアノ作品の研究 上・下」(ミュージック・ペン・クラブ賞受賞)、「クラシック 名曲を生んだ恋物語」、「クラシックでわかる世界史」などの著書などがある。