#20 チェコ国民主義 スメタナ/わが祖国 - アクロス福岡
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歴史を彩った名曲たち

#20 チェコ国民主義 スメタナ/わが祖国

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1848年、ウィーンは3月革命が勃発。これまでウィーン体制を敷いてきた宰相のメッテルニヒが国外に逃亡し、歴史の大きな転換期を迎える。この革命に連動して、オーストリア・ハプスブルク家の支配下にあった北イタリアのロンバルジア地方や、ハンガリー、ボヘミアでも革命がおこる。ロンバルジア地方での革命にいち早く共鳴し、運動に加わったのが作曲家のヴェルディである。
ボヘミアのプラハでは、1848年3月11日、人々が聖ヴェンツェル広場に集り、自国民による内閣と議会を要求し、さらに自由な選挙制度の確立や、官公庁でのチェコ語の使用、市民権なども求めた。当初の要求は穏やかな形で行われたが、これらの要求はやがて独立運動へと形を変えていき、人々は6月12日から17日の間、バリケードを築いて立てこもった。それに対してオーストリア軍は攻撃を加え、独立運動は鎮圧される。この時、独立運動に加わったのが作曲家のスメタナである。
スメタナの名作に「わが祖国」がある。6曲からなるこの交響詩はボヘミアの歴史と風土が刻み込まれている。第1曲「ヴィシェフラド」はかつて王宮のあった城で、伝説の建国の女王リプシェもこの城に住んだとされる。この曲の動機が他の曲に繰り返し用いられる。第2曲「ヴルタヴァ」はエルベ川の上流で、ドイツではモルダウの名で呼ばれる。源流に始まりとうとうと流れる川を通してボヘミアを美しく表現している。第3曲「シャルカ」は伝説の女性戦士である。第4曲「ボヘミアの森と草原から」ではボヘミアの美しい自然が描かれている。第5曲は「ターボル」で、15世紀で起こったフス戦争において、フス教徒はこのターボルに立てこもったとされる。この作品の冒頭にはフス教徒の讃歌「汝らは神の戦士たれ」が奏される。そして終曲は「ブラニーク」で、ボヘミアの山の名称である。ここに戦死したフス教徒が眠っており、国が危機に瀕したときは彼らが復活して国を救うとされている。この作品でスメタナはチェコの人々の心の原点と、祖国の栄光と歴史と未来を描きだした。

ベルリオーズ
西原稔 山形県生まれ。東京藝術大学大学院博士課程満期修了。現在、桐朋学園大学音楽学部教授。18、19世紀を主対象に音楽社会史や音楽思想史を専攻。「音楽家の社会史」、「シューマン 全ピアノ作品の研究 上・下」(ミュージック・ペン・クラブ賞受賞)、「クラシック 名曲を生んだ恋物語」、「クラシックでわかる世界史」などの著書などがある。