#21 スエズ運河と帝国主義 ♪ヨハン・シュトラウス2世/エジプト行進曲
1869年11月、スエズ運河が開通した。この運河はヨーロッパとアジアとの物資の運搬を容易にする目的で建設されたものであるが、帝国主義の利権争いをもっとも赤裸々に示している。この運河開通と密接に結びついた作品がヴェルディのオペラ《アイーダ》である。この運河の完成はエジプトにヨーロッパ文化の息吹をもたらすものであった。この運河の建設に当たったエジプトの国王イスマイル・パシャはカイロに「イタリア劇場」を建設し、運河開通の折に上演する新作をヴェルディに委嘱したのである。スエズ運河開通の翌年、フランスはプロイセンといわゆる普仏戦争に突入し、セダンの戦いで皇帝ナポレオン三世が捕虜となり、フランスの第2帝政はここに終焉(しゅうえん)する。その後1870年9月プロイセンの軍隊はパリを包囲し、1871年1月のパリ陥落までこの包囲が続いた。このオペラの初演で用いられる大道具はパリで制作されていたが、この戦争のために初演地のカイロへの輸送が不可能となる。
スエズ運河が開通した折に作品を作曲したのがヨハン・シュトラウス2世である。彼は1871年、《エジプト行進曲》を作曲する。異国趣味的な要素を取り入れた行進曲で、シュトラウスの行進曲の中では比較的演奏される機会の多い作品である。彼のこの行進曲は、皇帝フランツ・ヨーゼフも臨席した、スエズ運河開通式典という世界中を沸かせた出来事をうまく捉えたきわめて時事的な作品である。この式典のために皇帝がカイロまで赴いたのは、皇帝はここが国際政治の舞台となることを理解していただけではなく、国際化を意図していたのであろう。事実、この2年後にウィーンで万国博覧会が開催されることになる。
シュトラウスはこの作品だけではなく、時事的な事柄を軽妙なワルツや行進曲で作曲しており、この作品もその一つである。なお、この作品は元来はコーカサスを題材にした「チェルケス行進曲」として作曲されたが、これを改作及び改題して「エジプト行進曲」としてウィーンのシュピーナ社から出版された。その表紙画にはヤシの木と軍隊を閲兵(えっぺい)するパシャが描かれている。
スエズ運河が開通した折に作品を作曲したのがヨハン・シュトラウス2世である。彼は1871年、《エジプト行進曲》を作曲する。異国趣味的な要素を取り入れた行進曲で、シュトラウスの行進曲の中では比較的演奏される機会の多い作品である。彼のこの行進曲は、皇帝フランツ・ヨーゼフも臨席した、スエズ運河開通式典という世界中を沸かせた出来事をうまく捉えたきわめて時事的な作品である。この式典のために皇帝がカイロまで赴いたのは、皇帝はここが国際政治の舞台となることを理解していただけではなく、国際化を意図していたのであろう。事実、この2年後にウィーンで万国博覧会が開催されることになる。
シュトラウスはこの作品だけではなく、時事的な事柄を軽妙なワルツや行進曲で作曲しており、この作品もその一つである。なお、この作品は元来はコーカサスを題材にした「チェルケス行進曲」として作曲されたが、これを改作及び改題して「エジプト行進曲」としてウィーンのシュピーナ社から出版された。その表紙画にはヤシの木と軍隊を閲兵(えっぺい)するパシャが描かれている。
西原稔
山形県生まれ。東京藝術大学大学院博士課程満期修了。現在、桐朋学園大学音楽学部教授。18、19世紀を主対象に音楽社会史や音楽思想史を専攻。「音楽家の社会史」、「シューマン 全ピアノ作品の研究 上・下」(ミュージック・ペン・クラブ賞受賞)、「クラシック 名曲を生んだ恋物語」、「クラシックでわかる世界史」などの著書などがある。