#22 スエズ運河と帝国主義 ♪ヴェルディ/オペラ「アイーダ」 - アクロス福岡
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歴史を彩った名曲たち

#22 スエズ運河と帝国主義 ♪ヴェルディ/オペラ「アイーダ」

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ヴェルディのオペラのなかでもっとも人気の高い作品に数えられるのが「アイーダ」である。野外劇場で象を登場させるなど、スペクタクルの演出でいつも大きな話題を生んでいる。この運河の完成は新たな交易路の建設だけではなく、各国の帝国主義の政策と利権が密接に絡んでいた。
運河開通を記念してヴェルディにオペラの委嘱がなされた。エジプトで博物館館長のフランス人のオーギュスト・マリエットは、古代の神殿の祭壇の下から男女の人骨が発掘されたことをもとに草稿を書き、これをもとにした台本に作曲されたのがオペラ《アイーダ》である。 スエズ運河開通の翌年、フランスはプロイセンといわゆる普仏戦争に突入し、セダンの戦いで皇帝ナポレオン3世が捕虜となり、フランスの第2帝政はここに終焉する。このオペラの初演で用いられる大道具はパリで制作されていたが、この戦争のために初演地のカイロへの輸送が不可能となる。この普仏戦争ではヴェルディはフランスに対する強い支持を表明し、ヴェルディは「フランスの自由と文明が滅びるなら、我々のさまざまな自由も我々の文明も滅びる」と述べて、彼は2000フランをフランスの負傷者のために寄付し、その一方で、ドイツの強圧的な政治と軍事に強い拒否を表明する。オペラ《アイーダ》において、アイーダの父、エチオピア王アモナズロが捕虜となって、鎖に繋がれて舞台に登場する姿は、ナポレオン3世を連想しているといわれる。オペラの初演は戦争の終了後の1871年12月24日、カイロ劇場にて、コントラバスの名手で知られるジョヴァンニ・ボッテジーニの指揮で行われた。
運河開通を記念して華やかなオペラ劇場の柿落としがおこなわれたものの、運河の建設というこの壮大な工事のために、エジプトは多額の工費をイギリスやフランスから借り入れ、そのために財政難におちいり、1876年についに財政破綻に陥る。エジプトは保有していたスエズ運河株式会社の株をそっくりイギリスに手放し、イギリスによる運河の収益独占によって、エジプトはイギリスの経済支配下におかれることになるのである。

ヨハン・シュトラウス2世
西原稔 山形県生まれ。東京藝術大学大学院博士課程満期修了。現在、桐朋学園大学音楽学部教授。18、19世紀を主対象に音楽社会史や音楽思想史を専攻。「音楽家の社会史」、「シューマン 全ピアノ作品の研究 上・下」(ミュージック・ペン・クラブ賞受賞)、「クラシック 名曲を生んだ恋物語」、「クラシックでわかる世界史」などの著書などがある。