#23 ドビュッシーとジャポニスム ♪「海―3つの交響的スケッチ」 - アクロス福岡
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歴史を彩った名曲たち

#23 ドビュッシーとジャポニスム ♪「海―3つの交響的スケッチ」

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1870~71年の普仏戦争はフランスの芸術にも大きな影響を及ぼした。フランスが敗北し、ナポレオン3世が捕虜となったことはフランス国民に新しい意識を目覚めさせた。それはフランスのナショナリズムとフランス固有の芸術の追求である。それまでの19世紀フランスの音楽界では器楽はほとんどすべてドイツ音楽に席巻されていた。それに対抗してサン=サーンスはフランス国民音楽協会を設立し、フランス人による独自の器楽作品の振興を呼びかける。この時を境にしてフランスではドイツ音楽とは異なる独自の創作が推進されることになる。
フランスはアジアやアフリカに多くの植民地をもつだけではなく、こうした諸国からの文化がフランス国内にさまざまに流入していた。文明開化した日本の美術もフランスに流入した。その代表例が浮世絵である。フランス美術に及ぼした日本の美術の影響は広範囲におよび、ガラス工芸家のエミール・ガレの作品には日本の美術からの影響が顕著にみられ、こうしたジャポニスム(日本趣味)は近代のフランス芸術全体の大きな特色となっていった。その影響は音楽にも及んでいる。そして日本美術のもっとも重要な受容者がクロード・ドビュッシー(1862-1918)であった。彼の居間には 飾北斎の浮世絵「富岳三十六景」の一つ「神奈川沖裏浪」が掲げられていた。ただ、面白いことにその絵では富士山と小舟が消されている。
ドビュッシーが日本の美術を愛好し、このジャポニスムは彼の創作に少なからぬ示唆を与えた。彼の傑作「海―3つの交響的スケッチ」の楽譜の表紙を飾ったのが、彼の居間に掲げられていた上記の浮世絵であった。そのほかピアノ作品「映像第2集」の第3曲「金色の魚」は、蒔絵に描かれた金色の鯉に霊感を得た作品で、彼はこの蒔絵を所有していた。
ジャポニスムは、ドビュッシーだけではなく広くフランスの音楽界に浸透し、シャルル・ルコックは「お茶の花」や「古事記」を題材にした「コシキ」を作曲し、アンドレ・メサジェはオペラ「お菊さん」を作曲している。それは20世紀的な新しい価値観の誕生であった。

クロード・ドビュッシー
西原稔 山形県生まれ。東京藝術大学大学院博士課程満期修了。現在、桐朋学園大学音楽学部教授。18、19世紀を主対象に音楽社会史や音楽思想史を専攻。「音楽家の社会史」、「シューマン 全ピアノ作品の研究 上・下」(ミュージック・ペン・クラブ賞受賞)、「クラシック 名曲を生んだ恋物語」、「クラシックでわかる世界史」などの著書などがある。