#27 フランス革命 ♪オペラ「フィデリオ」 - アクロス福岡
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歴史を彩った名曲たち

#27 フランス革命 ♪オペラ「フィデリオ」

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ベートーヴェンの唯一のオペラ「フィデリオ」は、モーツァルトの「フィガロの結婚」とは違った意味でフランス革命と密接に結びついていた。「フィデリオ」の台本原作を書いたのはニコラ・ブイイというフランスの作家である。彼は、革命前は王党派に属していたが、革命後は革命裁判官を職業としていた。彼の原作「フィデリオ、または夫婦の愛」は、革命裁判官という職についたブイイの実話そのものに基づいている。
ブイイは裁判官として幼馴染のサンブランケ伯爵が反革命活動に従事した容疑で彼を取り調べなければならなくなる。ブイイは裁判手続きを遅らせることを画策するとともに、牢守を抱きこんで伯爵の妻を男装させて牢内に導きいれ、彼を脱走させようとする。一方、この地区では革命過激主義者のカリエという人物がいた。ここを統治するロベスピエール全権代理のサンタンドレは、カリエをその過激思想故に解任する。ブイイの画策が功を奏して伯爵は釈放されることになった。しかし、それを恨みに思ったカリエは、反革命首謀者として伯爵を暗殺しようと企てる。しかし、伯爵の妻は暗殺しようと牢獄に現れたカリエに拳銃を突きつける。そこに全権代理のサンタンドレが到着して危機を脱するのである。ブイイのこの出来事は、「フィデリオ」の原作の筋立てとよく似ている。
ベートーヴェンのオペラでは、政治犯の容疑でフロレスタンを収監する刑務所長ピツァロは、圧政を強いた権力の象徴として描かれている。このブイイの原作は、革命的思想を含んでいるとの理由でウィーンの検閲当局によって禁止処分を言い渡された。しかし、この戯曲を台本化したヨーゼフ・ゾンライトナーは、オーストリア・ハプスブルク家皇后が原作の戯曲を評価したとの理由を掲げて、1805年に検閲解除申請書を提出するのである。
このオペラはフロレスタンを妻レオノーレが犠牲的な活躍によって救出し、正義と秩序が回復されたという内容であるが、注目されるのは、男装して果敢にピツァロに対抗したレオノーレである。そこには自立した新しい女性の姿を見ることができる。

ベートーヴェン
西原稔 山形県生まれ。東京藝術大学大学院博士課程満期修了。現在、桐朋学園大学特別招聘教授。18、19世紀を主対象に音楽社会史や音楽思想史を専攻。「音楽家の社会史」、「シューマン 全ピアノ作品の研究 上・下」(ミュージック・ペン・クラブ賞受賞)、「クラシック 名曲を生んだ恋物語」、「クラシックでわかる世界史」などの著書などがある。