その昔、貧しい身なりをした旅の僧が、筑後川を渡る船賃に困っていたところ、親切な漁師が対岸に渡してあげた。そのお礼に葦の葉を一枚ちぎり、川の中に投げたところ、それが魚になって泳いだのが「エツ」といわれており、その時の僧が弘法大師であったとの伝説が残っている。

筑後川が有明海に注ぎ込む河口付近は、天然のウナギやナマズなどの川魚や有明海の魚が豊富に獲れるところである。その中でも日本では有明海にしか生息しないカタクチイワシ科の「エツ」は特に珍しい。細長い体に銀白色のウロコを持ち、扁平な姿はペーパーナイフのようである。「エツ」は5月から8月の産卵期になると淡水と海水が混じり合う「汽水域」をめざして筑後川を遡上してくる。脂ののったこの時期がいちばん美味しいとされ、大川市や久留米市城島町辺りで流し刺し網漁が行われる。

「エツ」は小骨が多く、鮮度が落ちるのが早いため調理が難しいとされるが、地元の料理店が苦心の末、十数種類の調理法を考案して名物となった。小骨を糸切りに細かく刻んだ洗いや、真子の珍味や塩焼き、南蛮漬けなど地元のお酒にあう郷土料理が揃っている。

この時期この場所でしか味わえない珍味を一度試してみてはいかがだろうか。