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第3回 上野焼[あがのやき](光修窯) — 伝統をベースに新境地を

第53回日本伝統工芸展に入賞した鉄釉組鉢
▲第53回日本伝統工芸展に入賞した鉄釉組鉢
栄西禅師によってもたらされ主に薬用とされた茶は、後に千利休によって茶道に昇華されると、戦国大名の素養、社交の『潤滑油』として広まった。陶芸も大名に茶器や高級食器を提供する陶工たちによって発展してきた。福岡県田川郡福智町の上野焼[あがのやき]も例外ではなく、江戸時代は遠州7窯のひとつに挙げられた。その陶芸の里を訪ねた。
24の窯元からなる上野焼の里は、名峰・福智山を背にしている。

ハイテク企業の技術畑からこの世界に飛び込み、作陶31年の熊谷光修さんは、上野焼協同組合(青柳一夫理事長)の中堅どころ。

伝統を受け継ぎながらも新しい境地を、と社団法人日本工芸会主催の「日本伝統工芸展」に挑戦、4度目の入選を果たし昭和61(1986)年、正会員となった。16人の上野焼協同組合員の中で、日本工芸会正会員は熊谷さんのほかに1人しかいない。また、伝統工芸士の肩書きももつ。

鉄釉を極めたい

熊谷さんは20年来、灰釉に鉄を加えた釉薬を使って重厚な味わいを求めてきた。
「酸化や還元、炭化と、いろんな焼き方があります。また、加える鉄の量や火を止めるタイミングによってもまったく違った発色になり、なかなか奥が深い。火を止めたら早く見たい。冷めるまでの40時間ほどが待ち遠しく、窯を開く瞬間の緊張感がたまらない。実際は失望することの方が多いのですが……当分、鉄釉の魅力から抜け出せそうにもありません」

これまでにも木工作品にヒントを得て賞を射止めたとのこと。作陶仲間との情報交換から新しい技術のヒントを得た。眠りに着く前の短い時間も貴重だ。アイデアは天使のように、ふと訪れることもあるという。

このところ遠ざかっていた日本伝統工芸展に1昨年、昨年と鉄釉の鉢を続けて出品。見事連続入選した。それらを含む20数枚にのぼる賞状が熊谷さんの店舗兼ギャラリーに掲げられている。

普段はもっぱら食器や飲食器作りに精を出すが、「鉄釉で青磁のような美しい色を出してみたい」と、次の挑戦を練っている。
(文・安藤憲孝)

  • お問い合わせ

    光修窯
    TEL:0947-28-5559
  • お知らせ

    上野焼秀作展
    2007年6月14日(木)〜2007年6月17日(日)
    各窯元の多彩な自信作を一堂に展示。
    熊谷さんにも会えるよ。

  • 絵・文  あんどう・のりたか
    年甲斐もなく好奇心が強い。無論、全てにそうではないが、特にモノ作りの現場でいつの間にか身を乗り出している。創造の世界が新鮮に映る。衰えそうもない好奇心に当分、付き合っていくか…
熊谷 光修さん(54歳)
▲熊谷 光修さん(54歳)
第52回日本伝統工芸展に入賞した鉄釉大鉢
▲第52回日本伝統工芸展に入賞した鉄釉大鉢