第6回 久留米絣 — 藍より青く 師の父を越える日を - 匠にであう - アクロス福岡
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第6回 久留米絣 — 藍より青く 師の父を越える日を

哲弘さんの小柄
▲哲弘さんの小柄
江戸後期、農村振興に産業が奨励された。久留米絣もその頃興[おこ]った。霜降り状の染めむらに着眼した少女の考案による。紺地に白柄の鮮やかさ。清新な色への憧れなしに久留米絣は生まれなかっただろう。素朴な風合いが人の心をとらえ筑後平野一帯の農家の副業として広がり、伊予絣など全国の絣織物の先駆けともなった。

精細な小柄を得意とする数少ない織元の森山絣工房(八女郡広川町)。虎雄(74歳)さん、哲浩さん親子2組の夫婦が携わる。ともに国指定重要無形文化財の久留米絣技術保持者会会員で、日本工芸会正会員でもある。

この道55年の虎雄さんは、38センチ幅の反物に70個の柄を織る。経歴23年の哲浩さんは40個まで。当然、数が多いほど柄は小さい。

絵柄になる経[たて]糸と緯[よこ]糸は、染まらないように麻の皮で括[くく]ってから染める。図案・下絵・括り・染め・織りなど、30に分かれる工程のどれも精確さが求められる。小柄になるほど寸分の狂いも許されない。

毎朝、哲浩さんは染料の藍瓶[あいがめ]を覗く。工房の床に36本の藍瓶が埋[い]けてある。瓶の中を竹の棒でかき混ぜる。天然の藍「すくも」はアルカリ性で発酵する。それもpH(ペーハー)10〜11の強アルカリだ。表面にあぶくが盛り上がっているのは、元気に発酵している証拠。澄んでいるのは、ちょっと疲れ気味。藍の状態は目でも分かる。虎雄さんは瓶に顔をつけ、舌に伝わるピリピリ感でみる。

「親父の頃にpH計はなかった。わたしはpH計で正確に計る」と哲浩さん。

弱った藍瓶には、酒や木灰汁を入れたり、元気の良い藍瓶から補給したり、管理に細心の注意を払う。特に湿度や気温の高い夏場は油断ができない。

毎年海外に作品を発信

藍の状態を確認して染める。木綿糸の束を瓶に浸ける。むらなく染まるようにゆする動作を繰り返し、瓶から上げる。ドロドロの藍がしたたり落ちる糸束に竹を通し、ねじりあげて脱水する。この段階で糸は褐色だが、床に打ちつけるうちに鮮やかな青に変わる。藍は空気に触れて発色するからだ。水洗いして天日に干す。この力業を繰り返すことによって紺色が濃く深くなる。哲浩さんは40回以上も染める。根気の仕事だ。

創業者の与作さんから5代目。大学でデザインを専攻。卒業後の1年間は京都の服飾デザイン事務所で修業して家業を継いだ哲浩さん。この23年間に日本伝統工芸染織展工芸会賞や久留米絣新作発表会で経済産業大臣賞を手にし、デザインで新境地を開いてきた。1昨年からロンドン、パリ、ニューヨークと毎年、世界に向けて自作を発信している。

「父は日本伝統工芸展で文部大臣賞を射止めた。サファイヤブルーという着物で、濃い藍地に白と淡藍の適度な分量の調和が特に見事、と激賞された。父にちょっとでも近づきたい」

「青は藍より出でて藍より青し」ではないが、出藍の誉れもある。
(文・安藤憲孝)

  • お問い合わせ

    森山絣工房
    TEL:0943-32-0023
  • お知らせ

    久留米絣〜森山絣工房展〜
    2007年9月4日(火)〜2007年9月9日(日)
    正藍染め、手織りの久留米絣反物・洋服・小物など250点を展示。

  • 絵・文  あんどう・のりたか
    年甲斐もなく好奇心が強い。無論、全てにそうではないが、特にモノ作りの現場でいつの間にか身を乗り出している。創造の世界が新鮮に映る。衰えそうもない好奇心に当分、付き合っていくか…
森山 哲弘さん(47歳)
▲森山 哲弘さん(47歳)
虎雄さんの大柄
▲虎雄さんの大柄
徳島産のすくも
▲徳島産のすくも
藍瓶から引き上げて力いっぱい絞る
▲藍瓶から引き上げて力いっぱい絞る