第9回 えとの博多人形 — 招福と厄よけの縁起物 - 匠にであう - アクロス福岡
Language 検索
  • Facebook
  • Instagram
  • YouTube
  • Twitter

匠にであう

第9回 えとの博多人形 — 招福と厄よけの縁起物

きんちゃくのねずみと三番鼠
▲きんちゃくのねずみと三番鼠
もうすぐ新年を迎える。十二支でいえば、始まりの「子」の年である。この時期になると、来年のえとのマスコットをよく見かける。古くから招福や厄よけの縁起物として底堅い人気がある。博多人形商工業協同組合(武吉國明代表理事)でも、毎年、組合員の有名作家の手によるえとの博多人形を制作している。

同組合が匠ギャラリーでえと人形の展示会を開催してきて今年で13回。2巡目に入るわけだ。その会場で絵付けの実演を担当している博多人形師、中野親一さんが今回の匠だ。同組合の副理事長でもある。

福岡市中央区白金の工房に匠を訪ねると、愛らしいねずみの三番叟など2種類の人形が絵付け中だった。絵筆を素早く動かし、色を付けていく。
縁起物だけに、赤や青、緑と鮮やかな色が多い。素焼きのねずみに生命が吹き込まれ、躍り出てくる感じだ。

「縁起ものですから、めでたい意匠が好まれます。毎年求めてくれる人が多いので、同じものは作れません。当たれば、千単位で注文が殺到します。作るのが間に合わず、電話を取るのも怖いほどです。もちろん、その逆もありましたよ」と話す。

幅広い年代に愛されるえと人形

えとのマスコットは焼き物の他にも、鋳物、一刀彫、ガラスなどバラエティーに富む。産地間競争も激しいわけだが、博多人形のえとは、毎年15〜20万体が全国に出ていくと見られる。その25%ほどを卸す後藤博多人形の後藤達朗社長は、「ずっとコンスタントに売れていて減りません。最も力を入れている商材のひとつ」。その人気の秘密を「置物のほかにも壁掛け、土鈴などバリエーションが豊富なこと。値段も500円から2、3万円と幅広いこと」と、後藤社長は見る。人形を求める人の大半は女性だが、えとは男性も買っていく。「団塊の世代が厄年を迎えているので、厄よけのお守りとして需要が増えるのでは」と、期待している。

「素焼きに着色する博多人形は、陶器などに比べ色が豊富で鮮やか」と中野さん。小島与一の流れをくみ美人もので定評のある人形師の家に生まれた。サラリーマンを経験した後、父親に弟子入りして以来42年。「父は見て覚えろといって一切教えてくれません。わたしは山笠人形を作りたくてこの道に入った」という。博多祇園山笠人形の制作は、父・親夫さんの死後まわってきた。それも、年中飾ってある櫛田神社の飾り山。すでに独立していたが、神経性胃炎で体調を崩すほどの重圧だったという。「山笠人形は年に1度だけ、しかも2か月で仕上げなければならない。博多人形と全く違った。親父と同じ出来栄えと言われたときにほっとしました」。今は櫛田神社の他にも2か所の飾り山を作る。中野さんの色遣いは、絢爛豪華な山笠人形の制作で洗練されたようだ。

力感ある武者ものを得意とし、福岡市主催の第22回博多人形新作展で最高賞の内閣総理大臣賞を射止た他に賞歴も多彩。伝統工芸士でもある。与一賞特選もものにしているが、「このごろ美人ものを作りたいと思うようになりました。ようやく女性の色気が分かる年になったとでしょうか」
(文・安藤憲孝)

  • お問い合わせ

    博多人形商工業協同組合
    TEL:092-291-4114
    TEL:092-291-8007
  • お知らせ

    博多人形「子」のえと展
    2007年12月1日(土)〜12月8日(土)
    博多人形の有名作家約40名が制作したえと人形のなかから厳選した120点を展示、即売します。
    会場では中野親一さんの絵付けの実演も行われます。

  • 絵・文  あんどう・のりたか
    年甲斐もなく好奇心が強い。無論、全てにそうではないが、特にモノ作りの現場でいつの間にか身を乗り出している。創造の世界が新鮮に映る。衰えそうもない好奇心に当分、付き合っていくか…
中野 親一さん(62歳)
▲中野 親一さん(62歳)
三番鼠
三番鼠
櫛田神社の飾り山
櫛田神社の飾り山