第12回 博多織  — 若い感性で、伝統に新風 - 匠にであう - アクロス福岡
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第12回 博多織  — 若い感性で、伝統に新風

県展に入選した村田さんの「福良雀」
▲県展に入選した村田さんの「福良雀」
わが国の伝統工芸のほとんどが、いま、後継者不足に悩んでいる。博多織も例外ではなく、織元でつくる博多織工業組合は一昨年4月、国、福岡県、福岡市の協力を得て後継者育成のNPO法人・博多織デベロップメントカレッジを設立した。今春、初めて卒業生を送り出すが、将来の匠を目指し日々研鑽する一期生を訪ねた。

12人が入学した一期生のうち、卒業まで残ったのは3人だけ。全員が女性というから、男性に支えられてきた業界では、この一事だけでも異変といえよう。
伝統に新風を吹き込む期待の星となるか、瀧口涼子さんと村田美帆さんに登場願った。

昨年4月開催された日本伝統工芸展西部工芸展に、初出展で入選を射止めた瀧口さんの『せせらぎ』は、注目を浴びた。淡い水色やピンクを基調にした献上帯で、従来の博多織には見られない色調だったからだ。「自分たちはこんな色は使わない」と、先輩を唸らした当人は、「水面に反射する光を表現しました。写真からイメージを膨らませて織り上げたのですが、権威ある展覧会で、まさか入選とは…信じられません」

奥深さを実感

小川規三郎学長(人間国宝)の「全員出品」の号令で臨んだ昨夏の第63回福岡県美術展覧会(県展)。瀧口さんは「日没後の暗闇が訪れる一瞬の空気をイメージした」帯『夕昏の刻』を、村田さんは「座禅に通う寺の庭に群れ遊ぶスズメのかわいらしさを表現した」帯『福良雀』を、宮川アリナさんは「爽やかな風が届くように」と織った帯『水の華』を出品し、瀧口さんが前原市長賞に輝き、村田さん、宮川さんもそろって入選した。

その後も博多織求評会など、機会あるごとに「全員出品」。福岡市内の百貨店で開催した「人間国宝・小川規三郎とその弟子たち展」では、各自が10本の帯を出品し、13本が売れた。会場の様子を村田さんが話す。「売り場に出てお客さんの反応を見ていたのですが、学生の作品と知って驚かれる人が多かった」

瀧口さん、村田さんともに会社勤めの経験をもつ。学生時代から和・洋裁に親しんできた瀧口さんは、もともと染織にあこがれていた。博多織デベロップメントカレッジの開校を知って、「自分を表現できるのはこれ」と、10年間の会社勤めを捨てて飛び込んだ。

有名旅行鞄メーカーに8年間勤め、外国を旅することが多かった村田さんは、「日本の文化について何も知らない自分に気付いて」入学した。

理由はそれぞれ異なるが、二人とも「糸かけの初歩から教わってきて、なんとか織れるようになりましたが、織れば織るほど新しい課題が出てきます」。いま、博多織の伝統の重さと技術の奥深さを感じている。卒業後も1年間の専攻科に進み、博多織で独立を目指す。
(文・安藤憲孝)

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    博多織デベロップメントカレッジ
    TEL:092-472-5102
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    博多織デベロップメントカレッジ第1期生卒業展
    今春卒業を迎える「博多織デベロップメントカレッジ」の第1期生3名が、2年間の努力の成果を30点の作品に込めて発表します。手織り実演も行います。

  • 絵・文  あんどう・のりたか
    年甲斐もなく好奇心が強い。無論、全てにそうではないが、特にモノ作りの現場でいつの間にか身を乗り出している。創造の世界が新鮮に映る。衰えそうもない好奇心に当分、付き合っていくか…
瀧口 涼子さん(33歳)
▲瀧口 涼子さん(33歳)
村田 美帆さん(32歳)
▲村田 美帆さん(32歳)
日本伝統工芸店西部工芸展に入選した瀧口さんの「せせらぎ」
▲日本伝統工芸店西部工芸展に入選した瀧口さんの「せせらぎ」