旧福岡県公会堂貴賓館
―福岡市―
福岡の近代様式建築*1にはいくつかの系統があるが、建築家三条栄三郎(福岡県技師)が関与した一連の公共建築もその一つである。西欧化を推進した明治政府は共進会(勧業博覧会)を開き、その折に皇族の宿泊施設としてこの建物を造らせた。ボザール*2から多くを学んだ三条は博覧会の華としてこの建築を設計した。
細身の石柱などで装飾されたフレンチルネッサンスと呼ばれる建築様式で、外壁は御影石に見えるように施工された。とんがり帽子の屋根付き搭屋をアクセントにアーチ窓や小さなドーマー窓*3をちりばめた外観は、セーヌ川沿いの瀟洒なシャトーの雰囲気だ。各部屋は異なったデザインの天井や白大理石の暖炉、アーチ、漆喰飾りでそれぞれ上品なインテリアに仕上げてある。豪華な階段(写真▲1、2)を上った2階貴賓室は青い天井画が実にすがすがしい。きらびやかな晩餐会が開かれた1階レストランのアルコーブ*3(写真▲4)でワイングラスを傾ければ気分はまさにパリだ。
この付近には一昔前まで様式建築が数多くあったが、現在はほとんど解体されてしまった。天神中央公園(福岡市中央区天神1丁目)にはやはり三条が設計した旧県庁の玄関部分(写真▲5)の列柱が往時を語っている。
*1 近代様式建築・・・明治元年から戦前に建てられたヨーロッパ風の装飾を伴った建築
*2 ボザール・・・19世紀パリに設立された古典主義を理想にかかげる美術学校
*3 ドーマー窓・・・急勾配の屋根裏部屋用に付けられた小屋根付き窓
*4 アルコーブ・・・西洋建築で部屋の一部をくぼませたり突き出したりして造った小部屋
写真・文|大森久司
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場所・お問い合わせ
アクセス
地下鉄空港線天神駅より徒歩5分、西鉄バス「市役所北口」下車徒歩1分備考営業時間 9:00~17:00
休み:月曜日(祝日の場合はその翌日)、年始年末
料金 一般240円
こども(15歳未満)120円
▲1 階段
▲2 階段手摺り
▲3 休憩室天井
▲4 レストランのアルコーブ
▲5 旧福岡県庁玄関部分