福岡市赤煉瓦文化館 ―福岡市―
福岡の洋風建築の代表作赤煉瓦文化館は建築家、辰野金吾の傑作でもある。唐津藩下級武士出身の辰野は工部学校造家学科(現東京大学建築学科)一期生として明治21年首席卒業を果たし直ちにロンドンに留学した。帰国後、東大教授として多くの人材を育て、工科大学(現東大工学部)学長に登りつめる。しかし早期退官後、自ら建築設計事務所を開設し東京駅を始め200あまりの建築を設計した。
赤煉瓦館は当初、日本生命九州支店として那珂川沿いの唐津街道に面して明治42年竣工した。地上2階地下1階の煉瓦造で、スレートと装飾的銅板で造られたドームや円すい形の屋根など変化に富む外観でランドマーク的存在だ。上質な煉瓦壁に御影石の帯状模様(写真▲1)や窓台などを飾り、周辺の建築を圧倒する存在感がある。屋根構造は木造だが内部の床梁に英国製のH形鋼を用い、当時珍しいコンクリート床を支えている。
バロック様式*1の庇や付柱*2で権威を演出した入口とは対照的に、玄関ホールはアーチの窓口カウンター(写真▲2)が印象的だ。照明はアールヌーボー調で外観とは違う柔らかさが感じられる。螺旋階段や大理石のガス式暖炉(写真▲3)などすこぶる先進的で、カーテンを復元した医員室(写真▲4)は往時の豪華さも体感できる。
平成6年の復原工事でも石材や煉瓦の補修は必要がなかった。軟弱地盤上にありながら福岡西方沖地震にもびくともしなかった。「どうだ」と言わんばかりの辰野の表情が思い浮かぶ。
*1 バロック様式・・・ルネッサンス後にイタリアで始まった芸術様式で空間を大胆に流動化し豪華な装飾を伴う。独仏の宮殿に多く、一旦すたれるが19世紀から戦前までネオ・バロックとして権威を表す建築に使われた。
*2 付柱・・・力学的に不要だが外観デザインを整えるために付けた柱。西洋建築では古代ギリシャのデザインが多用される。
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場所・お問い合わせ
福岡市中央区天神1-15-30アクセス
TEL:092-722-4666福岡市営地下鉄天神駅徒歩5分備考休み:月曜(月曜休日の場合は翌日)、
年始年末
営業時間:9時~21時 ※見学は無料
▲1 御影石の帯状模様
▲2 アーチの窓口カウンター
▲3 大理石のガス式暖炉
▲4 カーテンを復元した医員室