旧松本家住宅 ―北九州市―
明治の九州を代表する実業家松本健次郎は、鉱業で莫大な富を築いただけでなく、日本の発展に寄与したいと高邁な精神で優秀な生徒を集め明治専門学校(現国立九州工業大学)を創設した。その折に貴賓招待所の機能を持つこの住宅を造った。
住宅として規模が大きいだけでなくデザインが独特だ。東京駅を設計した辰野金吾が設計し、ハーフティンバー*1の形式ながら欧米の最新だったアールヌーヴォー*2デザインを取り入れた。外観は曲面や三角、台形の屋根がスレートや銅板で造られ、おとぎ話の洋館のように華やかだ。第三、第八会議室(▲写真1)の壁は、基礎の石や付け柱なども全て曲面になっている。内部の棚(▲写真2)や暖炉なども湾曲した装飾が多い。ステンドグラス(▲写真3)や家具なども独特で見飽きない。アールヌーヴォーはわずか十数年で無装飾の現代建築にとって代わられた。英国で古代ギリシャデザインを学び進取の気質をもって臨んだ辰野のこの住宅は、日本における希少なアールヌーヴォー建築として歴史に刻まれた。
公開日に1階のホール(▲写真4)でコンサートを聴くことができたが、木質の天井や吹き抜けも楽器の一部のように共鳴し、すばらしい音質で明治の雰囲気に浸った。洋館との隣に日本館(▲写真5)もあり、お茶をいただきながら庭をゆっくり眺めることもできた。ここは結婚式場としてとても人気が高いそうだ。工業都市のイメージばかりが付きまとう北九州市だが、すばらしい文化遺産があることを知ってほしい。
*1 ハーフティンバー・・・骨組みが木造で、梁・柱などを組み合わせた軸組の間に、煉瓦、石などを詰める建築構造。
*2 アールヌーヴォー・・・19世紀末にヨーロッパ各地で興った装飾芸術および建築の様式の総称。植物模様や流れるような曲線が特徴。
写真・文|大森久司
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場所
北九州市戸畑区一枝 1-4-33お問い合わせ戸畑区役所 総務企画課アクセス
TEL:093-871-1501(内線262)
※結婚式場としてご利用の場合は、西日本工業倶楽部
(TEL:093-871-1031)までお問い合わせください。JR戸畑駅より西鉄バス「明治学園前」下車徒歩5分備考見学:年2回(春・秋)の特別公開のみ(要事前申込)
※今秋は10月中旬を予定
▲1 第三、第八会議室
▲2 内部の棚
▲3 ステンドグラス
▲4 1階のホール
▲5 日本館