南河内橋(みなみかわちばし)
―北九州市―
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▲ 南河内橋
南河内橋(▲1)がかかる河内貯水池は北九州市八幡東区の山裾にあり堰堤(せきてい)高43メートル(▲2)のダム湖である。八幡製鐵(せいてつ)所に水を供給するため国の威信をかけ昭和2年に完成した。京都大学工学部出身の沼田尚徳(ひさのり)を中心とした製鐵所技師たちの設計監理による東洋屈指の大工事であった。漢詩人で書道も人並みすぐれ、アメリカ土木学会の会員でもあった彼は単なる機能主義者でなく、近代都市インフラの象徴として一連の施設を造った。
大小の自然石をダム本体ばかりか建屋や手すりにまで積み上げてあり、イギリス北部の城塞(じょうさい)を見るようで驚かされる。スリムな鉄骨の眼鏡橋はダム湖を彩る赤いレースのリボンのようだ。今では日本に一つしかないレンティキュラー・トラスという珍しい工法で、しかも実に繊細なディテール(▲3)だ。ギリシャ棟飾りアクロテリオン(▲4)が入口中央の梁に付けてある。橋とともに文化財になった図面は墨で描かれ実に精緻で能力の高さに驚かされる。コンクリートのアーチ橋や水に空気を含ませるための噴水池(▲5)などもあり、市民の憩いの場となることを願ってデザインされているのがすばらしい。
沼田は殉職者も出さず8年に及ぶ大工事を完成したが、その間5人の子どもと最愛の妻をなくしたと伝えられる。竣工を神に感謝しながらも愛しい妻を偲ぶ英文の石碑(▲6)を読んで思わず目頭が熱くなってしまった。
【参考:京機短信(京都大学機械系工学会誌)より千々木亨氏文章】
福岡の文化財建築をめぐる2年にわたる旅も今回が最終章となったが、名建築を造った人々の並々ならぬ努力や息使いを目の当たりにすることができた。建築家として当時の設計者と語らえたような楽しい時間であった。
写真・文|大森久司
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場所
北九州市八幡東区河内3丁目アクセスJR「八幡」駅より車で約20分お問い合わせ北九州市市民文化スポーツ局文化スポーツ部文化振興課
TEL:093-582-2389
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▲1 南河内橋
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▲2 堰堤
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▲3 繊細なディテール
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▲4 ギリシャ棟飾りアクロテリオン
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▲5 噴水池
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▲ 英文の石碑