博多包丁
背に反りがあり、先が斜めにカットされているのが特徴の「博多包丁」。魚をさばいたり、ゴボウの皮を剥いたりと、これ一本ですべての調理が行えることから別名「博多の一本包丁」と呼ばれている。昔はごりょんさんたちの嫁入り道具として、一家に一本あったという。
「鋼でできたこの包丁は手入れを丁寧に行うと20年くらい使えるんですよ。小さく、果物ナイフくらいの大きさになったものを『研いでください』と持ってこられたりすると、大切にしてくださっているんだなぁと嬉しくなりますね」と話すのは、この道58年という職人の大庭利男さん。大正15年に先々代が建てた鍛冶工場を、同じ場所同じ建物で守り続けている。
「一時は30軒ほどあった同業者も随分減ってしまいましたね。安くて手入れのいらないステンレス製の包丁が好まれた時期もありましたが、最近はまた原点回帰で本物志向が高まっているようです。若い方でも『一生ものだから』と買いに来られる方が多いですよ」
大庭鍛冶工場の3代目で16歳から今日までこの道一筋という大庭さんだが、まだ満足のいく“完璧な一本”は仕上がったことがないという。職人の道に、ゴールはない。「焼き入れと焼き戻しの作業は全て勘に頼るしかありません。マニュアルはなく、長年の経験とセンスで作り上げるので、最大作れても十日で三本程度。74歳になりましたが、未だに日々勉強中ですね」
ちなみに、大庭さんは相撲の土俵を作る際に欠かせないという土俵鍬を作る日本でただ一人の職人でもある。農機具としての鍬よりも刃が薄く、強度が強いこの鍬を作るには、卓越した高い技術力が求められる。
博多の食卓を支える唯一無二の道具を作り続ける一方で、日本の伝統スポーツの舞台をも支える名工。この職人技が生み出した包丁を一度手に取り、その重みと価値を感じてほしい。
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大庭鍛冶工場
福岡市中央区清川 3-9-21
TEL:092-531-5625