みづま刺し子
布や糸が貴重であった時代、破れたりほつれた個所に、布を当てるなど補強をして長持ちさせることを目的に始まった刺し子という技術。やがて、損傷の激しい肩や胸部分にはじめから装飾のように刺し子を施して補強をするようになり、そこから装飾技術が大きく発展していった。今では刺繍のような意味合いが強く、柄とデザインを重視して作品が作られている。
江頭眞弓さんは、みづま刺し子の生みの親だ。久留米絣の織屋を営む家に生まれ、父親は織元であると同時に藍染を専門にしていた。身近にあった藍染された布に、20代のころから趣味で刺し子を施していた眞弓さん。あるときその作品が染色専門誌の編集長の目に留まり、「全国に残る刺し子の文化の一つとして、その技術に名前を付けて残すべきだ」と言われ、地元の発展を願い「みづま刺し子」と名付けたという。以来、父親の藍染と二人三脚で刺し子を広め続けてきた。
「はじめは基本である暖簾制作の依頼ばかりでしたね。古典柄と言われる麻の葉模様などを中心に教室もしていましたが、そのうちにエプロンやポーチにも刺し子のデザインを取り入れたいと生徒さんたちから要望が出て。流行やニーズを聞いていくうちに、柄も蝶や花、家紋など広がり、作るものもバニティバッグや小銭入れなど多様化していきました。刺し子糸にはぼかしやレインボーといった新しい種類のものが出始め、今ではぐんとモダンなデザインと色の作品が生まれています。素朴な和風のイメージがありますが、意外にも洋風のインテリアや若い方のファッションにも合う工芸品なんですよ。“伝統工芸”と敷居を高く感じずに、日常品として気軽に使っていただけると嬉しいですね」
初めての人でも少し練習をすればチャレンジできる気軽さも刺し子の魅力。とはいえ、一針で角のとがり具合が変わったり、曲線のカーブの美しさが際立ったりと、経験を積むほどにもちろんその魅力も増していく。
地元の小学校の卒業制作としても指導に行き続けているという眞弓さん。若い世代にも確実に受け継がれている、時代に合わせて進化を続ける伝統工芸だ。
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田中昭正商店
福岡県久留米市三潴町高三潴22-4
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