博多水引
松竹梅に、孔雀に、鶴・・・実に美しい、繊細な姿に一瞬、水引で作られていることを忘れそうになる。自身の作品に「博多水引」という名を付け、四十余年にわたって福岡の結納のシーンを彩り続けてきた長澤宏昭(博多伝統手職人連盟会員)さん。彼の作る水引は、とにかく色合いが上品で細部に至るまで繊細な細工が施されているのが特徴だ。
「父は結髪師で、九州で初めて文金高島田の鬘を作ったと言われる職人なんです。小さい頃からそういった晴れの舞台を彩る職人仕事に、憧れのようなものを抱いていましたね。とはいえ、水引を生涯の職に選んだのは偶然にも近い縁でした。脱サラして、はじめは茶舗を営んでいたんです。九州ではお茶と結納は切っても切れない関係ですから、自然と結納セットを合わせて仕入れるようになりました。そこで水引飾りと出会い、自分でも見よう見まねで作るようになったんです。簡単なものならすぐに作れるようになりましたが、この世界は奥が深かったですね」
長澤さんは水引業界に次々と新しい風を送り込んでいく。結納セットに初めて博多人形を取り入れたり、屏風と人形と松竹梅を一組にしたりと、今では当たり前の光景を一つずつ生み出していったのだ。
「しがらみがなかったからこそ、前例のないものを打ち出せたのかもしれません。日本にしかない『結納』や『水引細工』という文化を、日本人の手で遺していかなくてはいけないと思うんですよ。大量生産品ではないので手作りで少しずつしか作れませんが、やはり大切な日に選んでいただくものなので心を込めて作りたい。昨今、結納をされる人自体が減っていますが、多くの若い方に日本の伝統的な習慣を見直していただければと思いますね」
長澤さんの作る水引は、その芸術性の高さから海外からも注目され始めている。結納のシーンだけでなく、モダンなお正月飾りとして、またクリスマスオーナメントとしてインテリアに使いたいという新しいファンも増えているそうだ。
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ながさわ結納店
福岡市博多区上呉服町13-231
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