【新着】3/13「The Real Chopin × 18世紀オーケストラ」若松夏美さん(18世紀オーケストラメンバー)からのメッセージUP!
今春、世界有数の古楽オーケストラ「18世紀オーケストラ」が22年ぶりにやってきます!そこで18世紀オーケストラの日本人メンバーであるヴァイオリニストの若松夏美さんから本公演にメッセージをお寄せいただきました。18世紀オーケストラの創設者であるフランス・ブリュッヘンのお話から、本公演の聴きどころまで、魅力たっぷりに語っていただいております。ぜひご一読ください。
Profile/若松夏美さん(ヴァイオリニスト)
仙台市出身。桐朋学園大学在学中(ヴァイオリン科)より古楽器に傾倒し、卒業後バロックヴァイオリンの演奏を始めた。オランダ、デン・ハーグ王立音楽院卒。ヨーロッパの古楽オーケストラのメンバーとして数々の演奏会、録音に参加し、帰国後は日本の古学界を牽引してきた。BISおよびアルテ・デラルコにモーツァルト、ハイドン、ボッケリーニの室内楽、協奏曲、バッハの無伴奏ソナタ・パルティータなど、多数録音。「福岡音楽祭」には発足時から多くの回に出演した。現在、バッハ・コレギウム・ジャパン、オーケストラ・リベラ・クラシカのコンサート・マスター。東京芸術大学古楽科非常勤講師。
18世紀オーケストラの創設者フランス・ブリュッヘンについて
「18世紀オーケストラ」は、1981年にリコーダー奏者であったフランス・ブリュッヘン(1934〜2014)が、古典派時代のマンハイム、パリなどのオーケストラのサイズを実現し、当時のように各地からの演奏家に呼びかけ、私財を投じて設立したオーケストラでした。
ブリュッヘンは、オモチャだと思われていたリコーダーを、音楽を演奏するための「本当の楽器」として世に知らしめた人で、「リコーダーのパガニーニ」と呼ばれたほどでした。その頃、ブリュッヘンと共に、チェンバロのレオンハルト、ベルギーのクイケン3兄弟(ヴィーラント、シギスヴァルト、バルトルト)、ウィーンのアルノンクール、イギリスのホグウッドやガーディナーなど、当時の音楽を当時の楽器で演奏することを提唱していました。その実践は(古いのに)新しい響きを作り出し、私たちは夢中になってその流れを追いかけたのでした。そこには、現在から過去を振り返るのではなく、新しい時代に向かうという精神を持った溌剌とした音楽がありました。いつの時代も、音楽家、芸術家は未来を見つめていたのだということを実感したものです。
ブリュッヘンがオーケストラを創設した頃、まだ当時の楽器でのオーケストラ演奏の例はほとんど無く、私たちは20世紀において、モーツァルト、ハイドン、そしてベートーヴェンの交響曲が当時の楽器で再現される初めての場に居合わせることになりました。その時の驚きと喜びは、今も新鮮なまま記憶に深く刻まれています。その後、シューベルト、メンデルスゾーンの交響曲が続きました。ガット弦を張った弦楽器群、それぞれの時代にふさわしい管楽器たちは、私たちに当時の音を再現してくれました。現代の楽器はずっと安定感があり、音程が確かで失敗を避けることができますが、当時の「危ない、はずれやすい」楽器の持っていた何か(音色)を失ったことは否定できません。
18世紀オーケストラとピアニスト①
やがて、18世紀オーケストラはついにショパンのピアノコンチェルトをワルシャワで演奏することになりました。2005年のことです。ソリストはダン・タイ・ソン氏で、彼は1849年のエラールで弾くことになりました。その後、多数のソリストとワルシャワで演奏しました。その中には、今回のユリアンナ・アヴデーエワさん、トマシュ・リッテルさん、また日本人では川口成彦さんをはじめ、海老彰子さん、なんと中学生だった小林愛実さんなどもいらっしゃいました。
個人的にすごく印象的だったのは、まずダン・タイ・ソン氏。彼がリハーサルを重ねる度に、どんどんエラールのピアノに慣れていき、美しい音を作り出していくのをメンバーは驚きをもって聴いていました。ショパンの演奏は初めての試みだったオーケストラにとっても、当時の管楽器の響きが聞こえてくると、「ショパンはこういう音だったのだ」と感動したのでした。
そして、ヤヌシュ・オレイニチャク氏。映画「戦場のピアニスト(2002)」の演奏は彼です。ポーランド人の彼はとても控えめな人で、しかし演奏の中に強さ、ポーランド風のリズム感、そして情感が溢れていて、オーケストラのお気に入りのピアニストの一人でした。
18世紀オーケストラとピアニスト②
もうひとり、特に印象的だったのが今回のアヴデーエワさん。とても知的で、演奏の中でのオーケストラとの対話、またショパンの自由な流れを自然な情感で演奏する素晴らしいピアニストです。彼女とは前の日本公演(2013年4月、ブリュッヘンの最後の日本公演になりました。)でも、オランダから持ち込んだエラールで感動的な演奏を聞かせてくれました。今回、福岡で彼女の演奏を聴いていただけることをとても嬉しく思います。私自身も舞台上で、彼女の演奏を楽しみにしています!
今回の公演では、ワルシャワのショパン・インスティテュートによって企画された、第1回ショパン国際ピリオド楽器コンクール(2018)の優勝者ポーランド人のトマシュ・リッテルさんと、第2位の川口成彦さんがソリストとして登場します。
ショパンが作曲した頃のピアノで演奏することが、このコンクールの狙いで、演奏者はエラール(1837年製)、プレイエル(1842年製)、ブロードウッド(1847/48年製)の3台の修復されたオリジナル楽器と、ポール・マクナルティによる復元楽器から選んで演奏します。そのコンクールが開催されることを聞いた時には驚きました。かの「ショパンコンクール」に古楽の部門ができるとは信じられない思いでした。演奏者たちは、当時の楽器のスペシャリストであり、ショパンや他の同時代の作曲家の楽曲を弾くだけでなく、それぞれの楽器をどのように響かせるかを研究しています。この若い2人はすでに当時の楽器、レパートリーを研究しての受賞でしたが、あれから5年たった今、どのように進化しているのか、とても興味深く、リハーサルが待ち遠しい思いです。
モーツァルトの交響曲 第40番について
また、今回のプログラムではモーツァルトの交響曲第40番ト短調が演奏されます。
1981年に日本の演奏団体のツアーでヨーロッパにいた私は、結成したばかりのこのオーケストラの演奏会をアムステルダムのコンセルトヘボウに聴きに行っていました。その後、コンセルトヘボウをいつも満席にした18世紀オーケストラも、結成当時は後ろの方に空席があるような状態でした。そして、シンフォニーが始まると・・・そこには楽譜の全ての音がクリアに聞こえてくるような音楽がありました。弦楽器の透明感、それぞれの管楽器の個性時な響き、それが重なった時の異なる響きなど、驚きの連続でした。この時の第1オーボエ奏者が、故本間正史さんだったことを懐かしく思い出します。18世紀オーケストラによるこの曲の録音は1985年で、ベートーヴェンの交響曲第1番とのカップリングでオーケストラ最初のLPでした! その後CDになっていますが、このオーケストラによる名盤の一つです。
古楽が息吹く街「福岡」
福岡は福岡18世紀音楽祭(1989年)、その後おぐに古楽音楽祭(1990〜1998年)を経て、福岡古楽音楽祭(1999〜2013年)、新・福岡古楽音楽祭(2014年〜)が催されてきた、国内でも古楽への関心が大変高いところです。私たちも多くの演奏会を開催していただきました。18世紀オーケストラと共に、22年ぶりにアクロスの福岡シンフォニーホールに帰ってくるのは感慨深いものがあります。私自身にとっても、今回がこのオーケストラのメンバーとしての最後のツアーになります。今まで古楽器による演奏を育ててくださった福岡の皆様に再会し、この演奏会を共に楽しむことを願っています!!
福岡シンフォニーホールでお会いしましょう!!